第1章 思い出味の紅茶と水の器

5/21
前へ
/47ページ
次へ
想いの香りとは一体なんなんだと首を傾げる千優に対し、咲弥はてきぱきと白い花を置いて手を合わせている。 「同じ花ですね」 なんとなく話さないのも気まずくて、でもまだ家には帰りたくない千優は必死に話題を探した。 そんな彼女の視線に写ったのは、自分が持ってきたものとまったく同じ種類の花。 「ん? あっほんとだ麝香連理草だね」 「じゃこう……れんりそう?」 「一般的にはスイートピーかな。他にも香豌豆(かおりえんどう)なんて別名もあるね。でも、今は時期じゃないはずなんだけど……」 「両親が好きだったんです……スイートピー」 咲弥は両親いい趣味してるねと優しく微笑んだ。 その笑顔はまるで桜の花びらのように柔らかで見る人みんなを(とりこ)にするようなそんな笑み。 千優の気持ちも多少│(ほころ)んできたその時。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加