第1章 思い出味の紅茶と水の器

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 「あれ? なんか冷たい……?」  気づいた時には千優たちの上にどす黒い雲。話し声をかき消してしまいそうな程に音をたてて雨が降り出してきた。 千優は、一瞬で思考を巡らせる。ここから急いで走ったとしても家に着くまで十分くらいはかかるだろう。これはもうこの雨を逃れることはできなさそうだ。 「よいしょっと!」 「な、何してるんですか?」 千優の目に映ったのは草むらをかきわける咲弥の姿だった。 儚げで整った顔つきをしている割に咲弥は結構奔放なのだろう。山道で草もボーボーに生え散らかしているというのに、構わず草の中を探している。 「う〜ん……これかな! はいどうぞ」 そう言って彼女が差し出したのは立派なふき。 こういうのは小さな虫がたくさんついていて普段なら絶対近づこうともしない千優だったが、この雨に濡れるよりはと、ふきを受け取った。 「ありがとうございます」 「気にしないで、それよりうちで雨宿りしていかない? こっから、大体五分くらいかなー」 「あま、やどり……」
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