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海賊の戦い
宮殿に火を放ってもいいと思っていたが、もともと木造の部分など殆どない。あっても、この寒波で燃料に使われ、燃えやすそうなものなど殆ど見つからなかった。だからオセロトルはその代りに、叫んだ。
大地を震わす、ジャガーの雄叫びを。
宮殿の衛兵――十数人か、いっせいに浮足立つのを感じた。
ジャガーの目で見る。赤い影が激しく動き回っている。武器をとりに行く者、逃げ出そうとする者、ただあわてふためいている者。
ジャガーの身体のまま駆けた。撃ってくる者二人、その他は逃げる。弾丸は当たらない。この状況で、当たるわけがない。
屋根の上からは散発的な銃声。撃つたびに場所を変えている。だから下からは応射できずにいる。
逃げる者。隠れる者。剣を抜こうとする者。あわてて銃を再装填しようとする者。闇の中の黒いジャガーの姿は視認しにくいが、こちらからはすべてが丸見えだ。
ためらわず、次々に鈎爪で薙ぎ払い、噛み殺した。
マイラ・ベルの言ったとおり、一方的な虐殺になった。
ジャガーの影の中に沈みながら、少年の中の冷静な部分が、そう思った。
だが、何も感じなかった。自分はまともな人間ではないな、と、苦笑いめいた感情を憶えるだけだった。
ぱん、ぱん、ぱん。
立て続けの銃声が三発、川沿いで起こった。
作戦終了の合図だ。
「引き上げるぞ、オセロット!」
「オセロトルだ!」
宮殿の塀を飛び越え、川にむかって走った。短艇が見えた。
闇の中、マストにはためいているのは海賊旗だった。
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