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凍りつく砂漠
そのあたりは、砂漠と言うよりも岩の多い丘陵地帯だった。昔のオルメカ人がつくった巨大な人の頭の形をした石像が、いくつも砂に埋もれている。空は晴れて、星明かりが照らしていた。
オセロトルはそうした岩陰のひとつに身を潜めて、敵が占拠しているらしい日干し煉瓦造りの村をうかがっていた。ただの村ではない。中心にある館は中で球技ができそうな大きさで、地方領主か豪族の住まいを思わせた。
傍らにはマイラ・ベルがいた。責任を感じ、馬で追ってきたのだった。その馬は、離れたところに隠してある。
「連中は何者だ。空を飛ぶ奴ががたくさんいるのか」
「イーグルの戦士だ。おそらく。俺と同じ、呪術で作り変えられた神官戦士だ。俺の目には四十人以上見える。だがイーグルは一人だけだろう。あとは普通の戦士だと思う。その他に普通の村人がいるかもしれない。ここからではそこまでわからないが」
「目的はわかるか」
「我々も一枚岩ではない。もともと小さい国の集まりだ。このあたりは半分メキシコのようなものだし、何を考えているかはわからない」
「だがまあ、殺されてはいないよな、お姫様」
「ああ、まだ光ってる」
つとめて冷静な声で、オセロトルは言った。
光の色が、普通ではなかった。彼女は食事はしないが、大量の水を必要とする。この砂漠では最も手に入りにくいものだ。
「で、どうする」
「どうすればいいと思う?」
「取引するか、戦うか、このまま機をうかがうか。そんなところだろう」
「待つのはなしだ。彼女がもたない」
「じゃあ決めろ。私は命をかけて支援するが、これはおまえの戦いだ」
「俺がまず一人で行く。丸腰で。あんたにはいつでも撃てる状態で後ろにいてもらいたい。奴らに気づかれない場所でな」
少年と女海賊が村に近づいていってしばらくのち、彼らが身体を預けていた岩のまさにその影の中から、黒い気泡を泡立たせながら、浮かび上がる者があった。長身。肩までの長髪。戦士と言うには不似合いなほど美しい、しかしどこか暗さをもった青年であった。青年は再び影の中に沈みこむと、イーグルの姿となって飛び立った。
本来なら見えるはずのない、季節外れの星座が光る空へと。
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