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オルメカの戦士たち
子供だった。
オセロトルとて大人ではないが、そいつはせいぜい十か十一、オセロトルより五歳は年下に見えた。その子供が、村の一番大きな建物の中の上座に座り、十数人の戦士を従えているのだ。建物は古い様式どうりに外周にしか壁のない一部屋だけのつくりで、壁の至る所で松明が燃え、屋内全体がくまなく照らされている。
影が、ないのだ。
「よく来たな、マヤの神官戦士よ」
貫禄たっぷりにそう言うが、声そのものはまったく子供のものだ。
「オルメカか」
「俺の名はラマナイ。この者たちは俺自身に従う戦士だ。オルメカの国は、もうなくなったのでな」
「オルメカの王は死んだのか」
「知らぬ。大地の底に消えた」
戦士たちがどっと笑った。オセロトルにはわからない。「大地の底に消えた」という意味も、戦士たちが笑う意味も。
「その娘に、用事があったのか」
「いや、特に用はないのだがな、まあいうなれば、保護したのさ」
オセロトルは少女のほうを見やり、怒りをこらえた。
「イーグルの戦士はお前の仲間ではないのか」
「保護したというのはイーグルからではない。おまえが仕える、永劫神官たちからさ」
「どういう意味だ」
「永劫神官たちはその娘を生贄にして世界再生の儀式を行おうとしている」
「そうだ、そうしなければ世界は闇に呑まれ滅びる」
「それが嘘だというんだよ」
鰐と名乗る少年は、そう言ってニヤリと笑ったのだった。
「世界は滅びぬというのか。今でさえこの有様だというのに」
「その娘はいわば種子だ。放っておけば自然に芽をだし花を咲かす。我らの伝承ではそうなっておる。生贄にせねばならんのは、マヤの永劫神官どもが、自分らに都合のよい世界をつくるためだ。そして、彼奴ら自身が神になるのだ。第三紀の神が同じことをしたようにな」
「興味深い話だが、信じるに足る根拠がないな」
「無理に信じよとは言うておらぬ」
「ならば彼女に何故あんなまねをする必要があったのか、説明してもらおうか」
ラマナイは声をたてて笑った。
「我らの説得をどうしても聞き入れてくれなくてな。汝のもとに帰せと言って聞かぬので、やむなくだ」
オセロトルはもう一度少女を一瞥した。一瞬だけだ。そちらに気持ちを奪われれば、命を奪う一撃がきっと飛んでくる。彼は手の中に隠した「鎧通し」を握りなおした。
少女は着衣を剥がれ、両手両足を縛られ、全身に殴打の跡を刻まれ、気をうしなっているのか、固く目を閉じていたのだった。
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