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ジャガーと鰐
彼女は人の心が読める。邪心のある者がいれば必ずそれと気づく。ならば、このラマナイ、鰐と名乗る者を信じる理由はなかった。
「ジャガーの戦士よ、わかっておろうな。この明るい部屋の中では、おまえの影の力は役に立たない」
「おまえは別だというのか。おまえは鰐の魂を影に縫いつけているのではないのか」
「それはやってみればわかろう。それよりもな……」
ラマナイは戦士たちに向かって言った。
「外に犬がうろついておる。行って始末してこい」
戦士たちが動き出す。そのときすでにオセロトルは駆け出している。まっすぐに、全速力で、鰐の童子に向かって。
ラマナイはふわりと立ち上がった。優雅とも思える動きで片足を舞うように振り上げ、下した。
ズゥゥム!
オセロトルを衝撃波が襲った。
床の石材が粉々に砕けながら波打つ。破片は一メートル以上も空中に舞い上がり、それもまたオセロトルに向かって飛来してくる。
想定外すぎた。オセロトルは見えない力に吹き飛ばされ転倒した。
とっさにできたのは顔をガードすることだけだったが、かざした両腕はただの一撃で血まみれになった。
「どうだ、面白かろう。これが鰐の力よ」
信じがたかった。鰐の童子の周りのどこにも、影はないのだ。だが――
「面白い!」
オセロトルは立ち上がり、腕を流れ落ちる血潮を舐めた。はったりだ。こんな得体のしれない相手と対峙したことはない。だが、「鎧通し」を右手に隠したまま、ラマナイを指さし、叫んだ。
「貴様を倒し、我が武勲とする!」
「やってみろ!」
ラマナイはそう言って、けらけらと笑った――
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