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イーグルの戦士
オセロトルは攻めかかった。人のかたち、ジャガーの力、牙、爪。そして速さ。ラマナイは反応できていない。もとより、人の体のままでは攻撃を防御することもできまい。腕で受ければ腕が千切れ跳ぶ。
だが、攻めきれない。攻撃があたらない。子供の姿をしたラマナイは、小さすぎるのだ。撃ち下ろす拳に体重が乗らない。完全なジャガーの形態に変身すれば、活路は開く。だが、おそらくは不可能。それができるならラマナイも鰐に変身しているはずだ。影が足りない。この環境は明るすぎる。
「オルメカの戦士どもは何をしておる! 野良犬一匹の始末に何を手間取っておるか!」ラマナイは叫んだ。半ば恐慌をきたしている。
「イーグル、イーグルは何故帰ってこない! 我が恩義を忘れたか!」
一気に決着をつけようとしていたオセロトルの覚悟が、一瞬揺らいだ。
そうだ、影の戦士はもう一人いる。
「私をお呼びですか」
上方、おそらく屋根の上から暗い声がした。重ねて、羽ばたきの音。
そして、凄まじい衝撃とともに、天井が破れ落ちてきた。
バラバラと破片が落ちる。その中心に、背の高い長髪の男がいる。
オセロトルは距離をとった。ラマナイ、イーグルの戦士の二人が視界に入る位置に動いた。
「貴様、借りがあるのを忘れたか。弟の身柄を我らが”保護”しておることを忘れおったか」
「ああ、すいません、あれ、弟じゃないんです。実は知らない子なんです」
オセロトルは話の裏を推測するしかない。イーグルはラマナイに弱みを握られ協力していた。ラマナイはそのつもりだったが、イーグルには裏の目的があって、彼を騙していた、そういうことか。
「あなたはあの人形を売る話を、マヤにも、ティノチティトランにも持ちかけていたようですね、エスパニア人にさえ打診していた。このようなときに金品をかき集めてどうするつもりですか。そもそも、自らの王を弑逆したあなたを、主は評価しておられません。あのような扱いにしても――」
イーグルはちらりと魂殻の少女を見た。
「主の意図したことではありません。私としては残念なのですが――」
すでに壁の松明の多くは振動で叩き落され、瓦礫の下になって火が消えている。部屋の中心に、影がある。そこから黒い泥のようなものがわきおこり、イーグルの体を包み始める。
「あなたにはもうこれ以上おまかせできないという結論でして」
その声が途中から歪みはじめる。気づけば、イーグルの戦士は巨大な鷲そのものに姿を変えている。翼長4メートルを越えるであろう、化け物じみた鷲に。
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