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水の中の太陽
太陽は水の底に沈んでいた。巨大な球体は燃え尽きてはいてもまだ熱と茜色の光を放っており、水蒸気がたちこめる海は、ぼんやりとオレンジ色に染まっていた。津波で破壊されたエスパニア人の港は岬の先端。入り江に面したこちら側は、ゆるく湾曲する砂浜だった。
その波打ち際に、人の姿をしたものがおびただしく打ち寄せられている。見た目は、本物の若い女としか見えない。ただし、不自然なかたちで手足をおりまげて絡み合いながら、ただ波に転がされるがまま。何日分もの時間そうしているのに、腐りもしないし、壊れもしない。
それが永劫神官たちの言った太陽の魂殻、いつか再生するための太陽の霊魂を閉じ込めた容器だった。ただ、そのほとんどに中身がない。すべての卵から雛が孵るわけではないのと同じことだ。生きているものは、たったひとつ。ジャガーの目で見ると、それがわかった。
熱を放つものは、暗闇の中でさえ赤く浮かび上がって見える。その女、いや、その人形は、ほかの人形と寸分たがわぬ姿をしていたが、ジャガーの目で見れば、まばゆい金色に輝いていた。
上に折り重なる命のない人形たちをどけて、彼女を、それを、掘り出した。ほとんど色素のない金色の髪、肌も白い。高貴さと無邪気さが半々に入り混じったような、美しい顔だった。少年はしばしその顔に見入り、我にかえり、眠っている彼女を起こそうと声をかけようとした。
ぱちりと、その目が開いた。
「あら、こんにちは」
黒い瞳の少女は、微笑んでそう言った。
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