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護るべき世界2
女だった。エスパニア人の年齢はよくわからないが、二十五をすぎてはいない感じだった。彼らが銃と呼ぶ火を噴く鉄の棒の先に、ひどく長い剣をつけたものを背負っている。拳銃を、それとは別に腰に吊っている。
「まずは自己紹介だ。アタシはアングリアの海賊、マイラ・ベル=シャーリー。区別つかないだろうが、エスパニア人ではない。むしろ奴らは敵だ。例の、太陽が落ちた時の津波で船をやられて、仲間がほとんど死んだ。だが、何人かは生きていて、私はそいつらを救いたい」
「白い人同士のことだろう、我々には関係ない」
「待てよ、おい。まず自己紹介しろよ」
「俺はチチェン・イツァにつらなる神殿の神官戦士だ。名前は、まあ、オセロトルとしておこう。この方の護衛をしている。この方に関して明かせることはない」
「つまらん奴だな、アタシたちに恩を売っておくといろいろ捗るかもしれんぞ」
「急ぎの、非常に重要な旅なのだ」
「なんだかお困りのようですし、お話だけでも聞いてあげてはいかがですか?」
「さすが、高貴な方は話がわかるな」
「あなたは……まあ、それなら聞くだけ聞きましょう。食事が必要な頃合だし」
「おお、それはありがたい!」
「誰が分けてやると言った!」
「いや、まさにそういう話なんだよ」
「どういう話だよ」
「飢餓が広がっている。我々もだが、マヤの民も飢えている。神官戦士どのにはかかわりのない話か?」
「それは……」
少年は言い淀んだ。厳しい鍛錬と呪術の効果で、彼自身はほとんど食べ物を必要としない。少女に至っては、ものを食べるためのしくみが身体の中にない。飢えや病いはありふれたものだ。すべてを救うことなどできはしない。自分には自分の任務がある。だが、この状況ではどうだ。すべてのトウモロコシが実らず、森の果実も熟らず、家畜も野獣も次々に死んでいっている。神殿の呪術に護られた者だけは生き延びるだろう。だが、それでいいのか。
「答えなよ、誰を護るための神官戦士だ?」
女海賊が言った。
少女が、静かな黒い瞳で、少年を見ていた。
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