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お帰り
勢い余ってチャイムを押してしまったが、悠二に拒絶をされる可能性がある。というか、可能性が高いだろう今更ながら軽率な行動に後悔して、ピンポンダッシュのようだがこのまま逃げてしまおうかと思っていたところに玄関の引き戸が開いた。
「基起、モモ太を探してくれてありがとう」
あの日のように怒った顔を想像していたが、まばゆいほどの笑顔だった。
あいつと一緒だからか・・・来るんじゃ無かった
「お茶でもどう?」
「え?いいの」
「べつに、モモ太の親でもあるんだろ?」
「じゃあ」と、靴を脱ぎだしたところで裕一が茶の間からでてきた。軽く会釈をすると裕一もニッコリと微笑んで「そろそろ行くよ」と言って靴をはき出した。
「おじさんとおばさんと奥さんによろしく」
「ああ、伝えておくよ」
そう言うと片手をあげて出て行った。
「ごめん、邪魔した・・・」
「え?何を言ってるの?台湾のお土産を持ってきてくれただけだけど」
「どうしたの?上がっていかないの」
「いや、おじゃまします」
茶の間に入るとモモ太がゆったりとした動作で近づいてくる。
「今もらったパイナップルケーキを食べよう」
穏やかに笑う悠二とむじゃきなモモ太、オレが好きだった日常だ。
ただ、あの部屋にオレの荷物はもう無い。
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