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キャリーバッグの訳
ガラス製の湯飲みの中には赤い花が咲いている。
「裕一さんが持ってきてくれた台湾のお茶、綺麗でしょ」
グラスの中をまじまじと見て
「おもしろいですね、こんなのは初めて見たかも」
「ところで、モモ太のことありがとう、先生から聞いたよ。用事はもういいの?」
「え?」そういえば、先生には急用があると言って預けてきたんだった「大丈夫」
「ごはん・・・」
「え?」
「ご飯どうするのかなって・・・でも、彼女が待ってるよね。ごめん、気にしないで」
あわててお茶を口に含む悠二が苦しそうな表情をしている、さっき外から覗いたときとはまるで違う表情、オレがそうさせている。
「彼女はいないよ、この間のは元カノで雨の日に捨てられた人」
「今は、実家に戻っている」
「実家?」
うん・・・基起は実家に帰りたくなかった理由を話し出した。
両親は仲がわるくて家庭は冷え切っているのに家族と言うだけで一緒にいるのが耐えられなかった。
物心ついたときにはすでに両親は仲が悪くどうして結婚しているのか、どうして一緒にいるのか意味がわからない、だから誰かと生活を共にしていてもいつでも出て行けるようにしていた。
家にも居たくないが、居たとしても両親が子供の自分に興味も無く家に居ながら一人で寂しく思っていた
だから家族という形は嫌だが、一人でいるのも嫌だった。
好きだと言われば一緒に住んでいたが嫌われる前にその家を出た。
だからキャリーバックが自分のすべてだった。
恋だとか愛だとか信じていなかったし、身体がつながっていればよかった。寝るときに人の肌があればいいと思ってきた。
でも今は、隣に悠二が居てくれるだけでいい、たとえ悠二に嫌われていてもかまわない。
「自分が悠二を好きで居たい」
情けないと思いながらも涙がこぼれてくる。
モモ太がやってきてながれる涙を手で押さえている姿が可笑しくて、つい笑ってしまうと悠二も笑いながら「嫌うわけないだろ」と顔を赤くしながら呟いた。
「それで、アパートに引っ越してきたいんだけど空室はある?」
「おかげさまで満室なんだ」
「だけど・・・」
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