雨が降る 黄昏時と夜のこと

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  そんな日々の続く放課後、私は保健室のベッドの中から校庭をぼうっと眺めていた。給食の時間に気分が悪くなり、ずっと寝ていたのだ。 お昼前から降り続くやまない雨に、校庭はもう水溜まりではなく、田んぼといった様子。お気に入りの長靴を楽しむ一年生や、普通に下校する生徒の姿もない。当たり前だ。もうとっくに下校時刻は過ぎているのだから。 私は、持ってきたはずの傘が無くなっていて、母親が迎えに来てくれるのを待っていた。 その日の雨雲は分厚く世界はより暗く、蛍光灯の明かりは朝から必須だった。 保健室内の様子が窓ガラスに反射して映るのが、まるで夜みたいだなと感じる。こんなに暗い夕方はそうそうない。 養護の先生は職員室に行っていて、私は独り、ベッドに腰掛け窓ガラスに映るものを、意味もなく視界に入れていた。 ……なんだか、もう辛いな。 でも、教室を離れただけで、それは幾分改善された。 もう、あそこには戻りたくない、かもしれない。 でも、お母さん泣いちゃうかな。 私はかわいそうな子だって、きらわれちゃうかもしれない。 そんなのは……いやだな。 でももうがんばれないかもしれない。 いじめは、忍び寄る病みたいに、私を想像以上に蝕んでいて。 記憶を手繰り寄せても、当時の私は顔に表情をのせることに困難していたと思う。毎日学校に向かうことだけで精一杯で、他のことには神経を使えなかった。 だから、言ってしまったのだ。 「小沼くんのせいで私いじめられてる」 無くした、或いは隠されてしまったかもしれない私の傘を探して持ってきてくれた小沼くんに。 なんのことかわかっていない小沼くんに、私は全部ぶち撒けて詰った。 「馬っ鹿じゃねえの!? ……じゃあもういいよ。芹沢の望むとおりにしてあげるよ。明日からは話しかけない」 「……」 「俺……芹沢と喋るの、楽しかったんだけどな……」 声色は私をとても蔑んでいて。 私は怖くなって小沼くんを途中から見れなくなり、逃げるように窓ガラスへと視線を移した。 外の暗さは増していて、窓ガラスには室内の様子が細かく映っていた。 そこには、声色とは違う表情の、泣きだしてしまいそうな小沼くんがいた。 とても傷つけたのだと。もう後悔しても遅かった。
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