雨が降る 黄昏時と夜のこと

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同じ路線の同じ方向の電車に乗り込む。そうして、小沼くんはここから十五分後の停車駅で降り、独り暮らしのアパートに帰る。私はそこから更に三十分揺られ、実家最寄りの駅まで。 「小沼くん……」 「痴漢避けだよ」 乗車率の高い電車内は息苦しくて蒸し暑い。けど出入口付近に収まった私は、背中に当たるガラスの冷たさに少し救われる。正面には小沼くんがいて、隔てる距離は胸に抱いた鞄のぶんだけ。 私が押し潰されないようにガードしてくれる小沼くんは大丈夫だろうかと思わず見上げてしまい、その距離の近さと端正な顔立ちにビビり、大急ぎで身体の向きを変えた。背中にあったガラスのほうを正面にする。 外はまだ雨が降り続き、車内のガラスは曇っている。手のひら全部で拭ってみれば、透明になったそこには、小沼くんの顔が映った。小沼くんの表情がまだ晴れていないことに、罪悪感でいっぱいだ。 「転勤……いつから?」 「三ヶ月後くらい。すぐじゃなくてごめん」 「っ、そうじゃなくてっ」 それ以上何か話すこともなく、電車はもう小沼くんが降りる駅へとスピードを落としていく。やがて完全に停車する。 「じゃあね、芹沢」 昔からきちんと挨拶をしてくれる小沼くんは、そうして今日もそれを欠かずに電車を降りていった。 「……っ、待ってっ」 「芹沢っ!?」 その、欠かされなかったものが、とても大切だと愛おしくなった。 「もうっ、昔みたいに話し掛けられなくなるの嫌だっ」 愛おしくなって。いや、昔から愛おしくて。きっと。 もう失くしてはいけないものだ。 「だから迷惑とか思わないでよっ。安心してなんて……不安にもなってないし小沼くんだって何も悪くないでしょっ?」 大切な縁が切れてしまえば、今度はもう元には戻らないかもしれない。恐怖に陥り、私は小沼くんと一緒にホームに降り立ち彼の手を掴んでいた。
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