雨が降る 黄昏時と夜のこと

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「――芹沢は、俺と離れたくないの?」 「うん」 「俺と話せなくなるの、嫌?」 「嫌だ」 「昔はあんなにそうしてほしかったのに?」 「……」 「それはもういいか。――芹沢は、俺と話すの楽しい?」 「楽しい」 「俺といるの、楽しい?」 「うん」 「付き合いは長いけど、一緒にいた時間は多くないよ? 俺、実はすごく嫌なやつかも」 「でもきっと楽しい」 「ふたりきりで飯をしたこともないのに? だって芹沢周りを気にしすぎるから出来なかった」 「うぅっ……」 「これからは、そういうのも誘っていい?」 「喜んで」 「なんで、俺の駅で降りたの?」 「だって、このままじゃ昔みたいにっ」 「うん。なったかもしれない」 「そんなの嫌で」 「芹沢は、俺を手放したくなかった?」 「て……ばなし……たく、ない……?」 「ははっ。そこで退行するのかっ。小学生みたいだね」 「……失礼な。私だって成長してる」 「なら、もう少し成長して、俺との縁を切りたくない理由を、いつか報告よろしく。なるべく早くで」 「承った」 「それで、俺のほうの結論と擦り合わせて、同じだったら……」 「だったら?」 「俺とのことより周りを優先させ続けた芹沢に、長年の俺の恨み辛みをお仕置きがてらその身にわからせるから」 「な……長年ってどれほどの? 最初からそんなに?」 「それは俺もわからないなあ。気づいたらそうだったとしか。十数年かもしれないし、たった二年か三年かもしれない」 お仕置きと言い出したあたりから、小沼くんはとても悪どい顔をしていて、それは見たことのないものだった。年数分の正座とかだったらきつい。座った太ももの上に重石を乗せられたらどうしよう……いやでも、恨み辛みを昇華してもらわなければいけないし疎遠になるのは絶対に嫌だ。 まあ、お仕置きは甘んじてお受けしよう。小沼くんがいなくならなければ、それで。 転勤なんてなくなればいいのにと呟くと、悪どい顔で寂しいのかと詰め寄られ、一番近い隣県の支社だから会うのに支障はないのだと安心させられる。 悪どい顔をした小沼くんは、時折それが綻んで笑顔にもなる。なんだか嬉しそうだ。共に過ごすときが増えるということは、きっとこういう部分も私はもっと知ることとなる。 けど、それは幸せなこと。 ――END――
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