雨が降る 黄昏時と夜のこと

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    小学五年生のときのことだった。 新しいクラスにも慣れてきたゴールデンウィーク明けから何故か始まった、半月に一度の席替えの中、くじを引いても毎回毎回、偶然にも小沼くんと私は隣の席になってしまっていた。そうしてそれが三度目の頃から私は、クラスの女子からいじめられるようになった。 理由は……女子のリーダー格だった雅ちゃんの好きな人が小沼くんで、いつもいつも隣の席になる私のことが気にくわなかった、というのが、理不尽ではあったけどそれだった。 小沼くんは、体育も勉強の成績も良くて、当時人気だった子役に少し似ている整った顔立ちをしていて背も高い。大人びた普段と幼くなる笑顔のギャップもあり、小学生女子が憧れる要素てんこ盛りな男子だった。性格もがさつさがなく、男子が苦手だった私も、小沼くんの優しさに実際触れ、自然と仲良くなることが出来た。 たくさん話をするようになれば、冗談を言い合ったりするくらいにもなって。 ……けど、それも雅ちゃんの視線を感じるたびに、どんどん苦しいものへと変わっていった。 頭がいい小沼くんは家で勉強に追われうっかりしてしまうのか、頻繁に教科書を忘れてくる人で、仕方なく机をくっ付けて教科書を見せてあげながらの授業のあとの休み時間には、教室の何処かから陰口を叩かれた。私に聞こえるように。 気が弱かった私は、痛めつけやすく傷つけやすい。クラスカースト上位のあちらと下位の私では、そういう行為が蔓延していくのにそう時間は要しないと悟った。 ……四度目、席替えでまた隣の席になり、小沼くんからまた芹沢かよと言われても、小沼くんからのおはようとバイバイに返しただけでも、すれ違うだけでも……もう、何をしても、たとえ小沼くんと関わっていなくても、私の状況は悪くなる一方で。 きっかけなんてもう関係なくなりはじめ……最初は喋ってくれていた友達からも距離を置かれるようになった。 いじめとはそういうもので、私の前は別の子がハブられていて、順番が回ってきただけ。少し我慢すれば。ただの無視と陰口で済んでいる。世の中にはもっと悲惨ないじめがある。大丈夫だ。少しの間だ――そう、考えて考えて、よく眠らないままに朝目覚めて。顔を洗って学校に行く準備をしながら、けれど吐き気が消えない。 クラス、という括りは、小学生にはあまりにも絶対的世界で、そこでの苦しみは、死に値した。
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