ストロベリーとミント

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ストロベリーとミント

集団房では、個別に部屋が分かれ、二人部屋となっている。洋式トイレは房の中にあり、風呂は週に2回入れる。食事は部屋に一日三食で、時間になったら、小窓から差し出される。ここに連行された当初は、不味い飯だと思ったが、食い続けていると慣れてくる。なんでも慣れだ。 僕の同居人はタナカといった。タナカは陽気な奴だが、手癖が悪く、窃盗を繰り返し、執行猶予中にも関わらず、空き巣に入り、百万円ふんだくって警察に捕まった。そして、そのまま此処に護送された。ここにいてもう二年になる。タナカは豪快に笑った。「まあ、病気だよ」。 「どうしようもないんだ。俺が一億円持っていたとしても、掏摸はやめられんよ。金じゃないんだ。例えるなら、ふと目の前に百円玉が落ちていて、それをこっそりと拾う感覚に似ているな」 と言った。僕がタナカの勝手な言い分に首を横に振ると、タナカはまた大声で笑った。静かな集団房でタナカの声がこだまする。 ◆ 僕は便器の上蓋を開け、放尿する。アンモニアの饐えた匂いはもう部屋に染みついていて取れない。僕の部屋だけではなく、他の部屋でも鼻奥につくアンモニアの臭いがする。夜の月の光が窓から差し込んでいて、格子状の影を床に造っている。便器に放尿しながら、ふと僕は天井を見上げると、天井の染みが微かに動いていたようで、僕の背中に寒気が走った。 ◆ サユリは僕の目の前で微笑んで、赤いストロベリーと青いミントのダブルのアイスクリームを僕に差し出す。ほら。 「変な組み合わせだな」 と、僕が言うと、ストロベリーの甘さとミントのすっきりとした味がたまらないのよとサユリは笑った。 僕とサユリの結婚式まであと一か月で、サユリはカレンダーの日付に丸を付けていた。そして、お腹をさすった。僕とサユリの子供だった。 「順番がちがっちゃったけどね」 サユリは微笑みながら言って、新しく日付が変わる頃、赤いペンで丸をまた一つ付けた。愛おしそうにお腹をさするサユリは、「まだお腹が膨らんでないけど、お腹の中に一つの生命があって、それが貴方と私の繋がりだと思うと嬉しいのよ」と、顔を綻ばせながら言った。もう、サユリのウエディングドレスも決めてある。サユリの小さな顔に似合うように、純白とオレンジ色のドレスの二着だった。サユリとドレスを選んでいるとき、僕は長く待たされた。これ、どう? とサユリは言う。似合うんじゃない? と僕が言うと、あ、これも可愛いと言って、違うドレスをまた試着した。僕は溜息を一つつく。時計を見ると、ドレスを選んで二時間はたっていた。カフェでその事に文句をつけると、女性には人生で一回はこの楽しみがあるのよ、男には分からないのかしらと言って、含み笑いをした。僕が、やれやれと言った感じで、分かったよと言うと、サユリははにかんだ。
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