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金曜日
遼太は宏と一緒にバスに乗っている。
仕事終わりに待ち合わせ、予約した店に向かっているのだ。
夕方から降り始めた雨が今でも振り続いている。
前の席では高校生のカップルが話をしていた。
「結局、河田もバスで帰ってんじゃん!」
「しょうがないじゃん、先生が教室閉めるって追い出したんだから!」
「置き傘くらい用意しとけよ!なんでお前と一緒の傘で帰らないといけないんだよ、びしょびしょだよ!」
「いいじゃん別に!」
仲良さげに話すカップルとは裏腹に遼太達は終始無言だった。
駅前にある、個室居酒屋につき、とりあえずビールとつまみをいくつか注文した。
「最近、仕事はどうだ?」
宏がようやくしゃべった。
「前と変わらない。いつもと一緒だ。」
遼太も相変わらず無愛想に答えた。
「ビールでーす!」
バイトだろうか?店員がジョッキを置いていくとあっという間に行ってしまった。
「おい!」
宏が遼太に呼び掛けた。
遼太は最初意味がわからなかったが、すぐに察してジョッキを持ちあげた。
乾杯!
二人は笑顔も見せず、ビールを飲んだ。
「俺さ…………」
遼太はジョッキを置き、宏をまっすぐ見た。
「俺、今度結婚するから!」
宏はビールを一気に飲み干すと
「そうか!おめでとう!!」
満面の笑みを浮かべた。
まさか、宏がこんなに喜ぶと思っていなかった遼太は驚いた。
「ありがとう」
遼太も照れ臭そうに笑った。
久しぶりにお互いの顔をちゃんと見た気がする。
(こんな笑顔を見たのはいつぶりだろう。)
心の中でそう思った。
「今度、野球でも観に行くか?」
宏が聞いた。
「あぁ、そうだな」
遼太は短く答えた。
「勝てるかな?」
今度は遼太が聞いた。
「いや、今年も最下位だ。どうせ負けるだろ。」
宏は笑った。
それにつられて遼太も笑った。
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