11人が本棚に入れています
本棚に追加
田所 恵梨 Ⅳ
しばらくすると下津が来た。
私達がいるテーブルに座り合コンの後について話し始めた。
・LINEで連絡を取っていたこと
・遊園地にデートに行ったこと
・そこで告白して付き合ったこと
・次の朝には既読がつかなくなったこと
・そこから2日経ったこと。
「なるほどな。それで、真理子さんと同じ職場の恭子さんに連絡が取りたくて俺に電話してきたんだな?」
謙二はアゴをさすりながら下津に確認した。
はい、下津は短く返事をした。
「残念ながら、実は俺達も恭子さんに連絡を取ろうとしているが繋がらないんだ。今日だけじゃない。少なくとも1週間前から。」
謙二はそう話すと今度は恵梨が自分のいきさつを話した。
下津は静かに聞いていたが、やがて話が終わると
「そんな、、、どうすれば、、、」
と呟き ひどく動揺しているようだった。
いや、彼だけじゃない。
恵梨たちも動揺していた。
「こうして頭を抱えていても仕方ない。明日恭子さんと真理子さんの職場に行ってみよう!そこにいけば会えるだろう。」
謙二の提案に反論する気はなかった。
恭子の職場は駅前のオフィス街にあるビルだ。
確か島田商事という会社で、ビル丸々その会社のものだったはずだ。
翌日、我々3人はそれぞれの仕事を早目に切り上げ、島田商事の前に集まったのは時計の針が17時半を少し回った時だった。
しばらく待っていたが二人が出てくる様子はなかった。
そこでビルから出てきた人に話しかけた。
数人に話しかけたが、無視されるか断られて足早に去っていくかであった。
ようやく一人の女性が足を止めてくれた。
女性は突然話しかけられ驚いた表情をしていた。
話を聞くと島田商事の業務担当をしているという。業務担当であれば恭子達と同じ課であるはずだ。
「あの、本日は西田恭子は出社していますか?」
彼女はさらにギョッとした表情になった。
「しばらく会社には来ていません。あなた達とはどういうご関係ですか?」
彼女は露骨に怪しんでいる様子を隠そうともせず聞いてきた。
「大変、失礼しました。我々は恭子さんの友人です。」
謙二は相手の警戒を少しでも解こうと努めて明るく話した。
「恭子さんはいませんか。それでは、花野さん、花野真理子さんはいらっしゃいませんか?」
今度は彼女は怒りだした。
「いい加減にしてください!一体なんなんですか!あなた達は!いきなり来て二人のこときいて!もうやめてください!」
半ば絶叫気味に彼女は怒ると、またビルの中へ戻っていってしまった。
確かに急に話しかけていろいろ 聞いたが、なぜそこまで怒ったのか理解できなかった。
だが、ビルに戻り上司に
(ビルの前に社員の情報を聞いてくる怪しい3人組がいる)
とでも報告されれば厄介なことになる。
恵梨たちは退散することにした。
駅に向かって歩いていたが、
下津が、あっ!と言ったかと思うと駆け足で走り、一人の男に話しかけていた。
どこかで見たことがある気がする男であったが、思い出せなかった。
やがて、下津に追い付くと男は
「お二人ともご無沙汰しております。」と深々と頭をさげた。
男はイヤらしくもなく、かといって満面でもない不気味な笑みを浮かべていた。
ようやくこの小太りの男があの合コンの時にいた男だと思い出した。
名前は山本だったか、山下だったか、、、とにかく山なんとかであった。
「この間の飲み会来てたけどこの人、謙二さんの知り合い?」
恵梨はヒソヒソ声で聞いた。
「いや、この人は恭子さんとSNSで知り合って飲み会に参加していた人だからこの前が初対面だよ。」とヒソヒソ声でかえってきた。
その小太りの山なんとかは飲み会の時、ほとんど私達と話をせず恭子ばかりに話しかけていた。
「最近、恭子さんと連絡がとれないのですが、なにかご存じないですか?」
下津は直球で聞いた。
男からの答えは予想外のものであった。
「あぁ。彼女なら私のところにいます。」
「私の、、、ところ、、、?」
意味がわからず恵梨は聞き返した。
「えぇ、そうです。まぁ正確に言うならば私たちのところですかね。」
落ち着いたトーンで、相変わらずイヤらしくもなく、かといって満面でもない不気味な笑みを浮かべる男とは対象的に三人の表情は強ばっていた。
男は続けた。
「今から、そこに行くところです。恭子さんに会いたいなら、良ければ皆さんもいらっしゃいますか?」
男はまた笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!