田所 恵梨 Ⅴ

1/1

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

田所 恵梨 Ⅴ

「またね」 恵梨は二人に別れを告げ、歩き始めた。 振り返るとちょうど二人は改札を抜けるところだった。 やがて、二人の姿は人混みの中に消えた。 「もう二人に会うことは無いだろうな」 そう呟き、また前に歩き始めた。 今日会った恭子は、ついこの間までの恭子とは人が変わり、もはや抜け殻のようになってしまっていた。 なんだかスッキリせずモヤモヤしたまま、ぶつけようのない怒りが胸の中で渦巻いている。 帰る途中、コンビニへ寄り、酒を3、4本と適当につまみを買った。 普段あまり酒は飲まないが、今日は酒でスッキリしたい気分なのだ。 家に着くなりシャワーを浴び、早速買ってきた酒に手を伸ばす。 一口、二口、三口と一気に流し込んだ。 「く~五臓六腑に染み渡る~」 今時、中年のおじさんでも言わないようなセリフを吐き、フーッと大きなため息をついた。 酒のペースはドンドン進み、つい飲みすぎいつの間にかテーブルに突っ伏して寝ていた。 気が付けば時刻は朝の9時前だった。 今から準備しても会社には間に合わない。 「申し訳ないんですが、体調が悪くて…………」 いかにも申し訳なさそうな、そして体調の悪そうな声を出し、会社も休んでしまった。 「いいよね、1日くらいずる休みしても」 昨日、酒を飲みスッキリしたのか、恭子のことなどもうどうでもよかった。 携帯に不在着信と未読のメッセンジャーが来ていた。 彼氏からだった。 「俺、何か勘違いしていたみたいだ。話がしたい。もう一度やり直そう。」 何故、勘違いとわかったのかは不明だが、どうやら誤解は解けたようだ。 なんだかカーテンから漏れる朝日がいつもより眩しいような気がする。 恵梨はおもいっきりカーテンを開け、初夏の日差しを浴びた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加