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田所 恵梨 Ⅴ
「またね」
恵梨は二人に別れを告げ、歩き始めた。
振り返るとちょうど二人は改札を抜けるところだった。
やがて、二人の姿は人混みの中に消えた。
「もう二人に会うことは無いだろうな」
そう呟き、また前に歩き始めた。
今日会った恭子は、ついこの間までの恭子とは人が変わり、もはや抜け殻のようになってしまっていた。
なんだかスッキリせずモヤモヤしたまま、ぶつけようのない怒りが胸の中で渦巻いている。
帰る途中、コンビニへ寄り、酒を3、4本と適当につまみを買った。
普段あまり酒は飲まないが、今日は酒でスッキリしたい気分なのだ。
家に着くなりシャワーを浴び、早速買ってきた酒に手を伸ばす。
一口、二口、三口と一気に流し込んだ。
「く~五臓六腑に染み渡る~」
今時、中年のおじさんでも言わないようなセリフを吐き、フーッと大きなため息をついた。
酒のペースはドンドン進み、つい飲みすぎいつの間にかテーブルに突っ伏して寝ていた。
気が付けば時刻は朝の9時前だった。
今から準備しても会社には間に合わない。
「申し訳ないんですが、体調が悪くて…………」
いかにも申し訳なさそうな、そして体調の悪そうな声を出し、会社も休んでしまった。
「いいよね、1日くらいずる休みしても」
昨日、酒を飲みスッキリしたのか、恭子のことなどもうどうでもよかった。
携帯に不在着信と未読のメッセンジャーが来ていた。
彼氏からだった。
「俺、何か勘違いしていたみたいだ。話がしたい。もう一度やり直そう。」
何故、勘違いとわかったのかは不明だが、どうやら誤解は解けたようだ。
なんだかカーテンから漏れる朝日がいつもより眩しいような気がする。
恵梨はおもいっきりカーテンを開け、初夏の日差しを浴びた。
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