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山口 謙二Ⅴ
謙二達はあの日のバーに来ていた。
中に入ると、カウンターにバーテンダーが1人、謙二達とは別の客が二人いた。
「山口様、いらっしゃいませ。」
バーテンダーはこちらに気づくと丁寧にお辞儀をした。
「マスターは本日、不在です」
「知ってる。奥の部屋を使っていいか?」
謙二は聞くのが先か進むのが先か、店の奥へと進む。
奥には上客だけが使える部屋があるのだ。
謙二は部屋の中の高級ソファーに腰かけると突っ立ったままでいる男にも座るように促した。
「ここは?」
周りをキョロキョロ見渡しながらゆっくりと座った。
「あぁ、気にしないでくれ。ここは行きつけのバーだ。あの日の夜に恵梨さんときたバーだ。まぁ、あのときはカウンターだったがな。仲間なんていないだろ?」
謙二はタバコに火をつけ笑った。
「はぁ」
男は気の抜けた返事をした。最初の威勢はもうない。
「何故ここに?」
「ここなら落ち着いて話ができる。人に聞かれたくない話なんだ。」
謙二は携帯を取り出し男に一枚の写真を見せた。
写真には謙二と凛々しい顔立ちの男が二人で写っていた。
「これは?」
先ほど男は何も理解できず困惑している。
「彼氏だ」
謙二は短く答えた。
「へ?」
「俺の彼氏だ。俺はゲイだ。」
謙二は表情を変えずに話した。
「いや…あの、…その…」
男はなんと言ったらいいかわからず、言葉に迷っている。
「でも、あの日も合コンに…」
やっと出てきた男の言葉を謙二は遮った。
「確かにあの日も合コンの幹事をした。俺が合コンをするのはカモフラージュだ。」
「カモ…フラージュ」
「そうだ。俺は回りにカミングアウトをしてない。だから、カモフラージュするために合コンをしている。
世の中には、君の知らない愛の形があるんだよ。」
謙二は一本目のタバコを灰皿に押し付け、もう一本タバコに火をつけた。
「じゃあ、あの日はホントに恵梨とは何も?」
男は半信半疑で聞いてきた。
「あぁ、そうだ。俺は女に興味がない。」
男は全身の力が抜けたように深いため息をついた。
「あの、いろいろすみませんでした。俺はてっきり恵梨と…」
男はペコッと頭を下げた。
「もういいよ。気にするな。」
謙二は優しく笑った。
「でも、人に知られたくないのに何で俺に?」
「そうでもしないと君の誤解が解けないだろ?」
謙二は二本目のタバコを吸い終えた。
「そのために、大事な秘密を…ホントにすみませんでした!」
今度は男はしっかり頭を下げた。
「そろそろ行くか?」
謙二達は店を出た。
駅までの道中歩きながら話をした。
「今回はホントにすみませんでした。俺、恵梨ともう一回、話し合ってやり直そうと思います。ホントにありがとうございました。」
男はそう言うともう一度頭を下げた。
「そうか」
謙二は短く答えた。
「彼氏さん、カッコいいですね。」
男は最後に笑ってそう告げると駅で別れた。
謙二は家に向かって歩き始めた。
「おかえり」
家に着くと聡が出迎えてくれた。
「うまくいったのか?」
台所から聡が聞いてきた。
「半分はうまくいったかな、もう半分はどうだろうな。どちらにしろ俺にできることはやった。」
謙二はテーブルにつき、テレビを点けた。
「もう合コンでカモフラージュなんて辞めたらどうだ?」
聡が料理を運びながら聞いてくる。
「そうだな、今回みたいなこともあるしな…」
エビとマッシュルームが入ったアヒージョを口に運ぶ。
「うん、旨いな!やっぱり旨いよ、マスター」
「おい、家のなかでその呼び方は…」
聡がテーブルの向かいに座りながら怒っている。
「わりぃ」
謙二は笑った。
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