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下津 成義 Ⅵ
「明日、もう一度会社へ行ってみます。」
謙二にはそう告げ俺は別れた。
結局、真理子さんの情報は、なにも得られずLINEも未読のままだ。
翌日、また俺は定時であがり真理子さんの会社へ向かった。
ビルの前でしばらく待ってると昨日の女性が出てきた。
俺の顔を見ると嫌そうな顔をして足早に立ち去ろうとした。
走って追いかけ、嫌そうにしているところを構わず話しかけた。
「ちょっと待ってください!」
息を切らしながらなんとか呼び止めることができた。
「なんなんですか!今日は他の二人は一緒じゃないんですか!?」
警戒心を剥き出しに女性はまくし立てた。
「違うんです!僕はただ真理子さんのことが心配で、、、急に連絡取れなくなったんです。
今日は会社に来ていませんか?」
「、、、、、、、」
女性はしばらく黙りこみ沈黙が続いた。
「わかりました。真理子さんについてお話しします。」
立ち話もなんですから、と俺達は近くの喫茶店へ入った。
「真理子さんについてお話しする前に、あなたが真理子さんとどういったご関係なのかお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「はい、僕は真理子さんの彼氏です。合コンで出会い、先日からお付き合いしています。でも、お付き合いを始めた当日の夜から連絡がとれなくなって、、、」
「そうですか…真理子さんとの連絡手段は?」
「LINEを交換しただけで、電話番号はわからないんです。」
「じゃあ真理子さんの家とかもまだご存知ないんですね?」
「はい、まだ出会って間もないですから。」
女性はうつむき、そっかそっか、と言いながら少し考え込んだ。
この頃には最初の警戒心はだいぶ薄れていた。
「わかりました。あなたが怪しい人にも見えませんし、あなたの話を信じましょう。では、真理子さんのお話を致します。」
「あなたと真理子さんがお付き合いした日、、、
その日に真理子さんは亡くなりました。」
心臓が跳び跳ね、鼓動がどんどん早くなり、呼吸がうまくできない。周囲は騒がしいはずなのにそんな喧騒も耳に入らなかった。
「今………なんて………?」
「真理子さんはあの日、、、あの帰り道、車に跳ねられ亡くなりました。」
頭の中が真っ白になり何も考えられなかった。
「通夜もお葬式ももう終わりました。まさか、お付き合いしていた方がいるとは、私達もご遺族の方も何も知らなかったものですから、お伝えする術がありませんでした。」
女性は目を真っ赤にし、なんとか言葉を紡いだ。
「彼女は……彼女は、一体どのような事故で?」
なんとか声を絞り出した。
「私も詳しくは知りません。ただ、打ち所が悪く即死であったと、、、」
そこからのことはあまり覚えていない。頼んだコーヒー代をどっちが払ったのか、電車で帰ってきたのか、タクシーで帰ってきたのか。
気が動転して、何も考えられなかった。
気がつくと自宅のベッドに仰向けに寝転んでいた。
天井を見つめていると止めどなく涙があふれでた。
目をつぶると彼女の美しすぎる笑顔、それに笑い声、何もかもが思い出され余計に涙が止まらなくなった。
彼女が亡くなって数日経つというのに、俺は何も知らず、何もできず。
彼女のそばに行ってやることも、
「さようなら」を言うことさえも、
できなかった。
楽しかったあのデート、、、そんな日々がこれからも続いていくと思ってた。
もし、願い事が叶うならば
せめてもう一度………もう一度だけ、あなたに会いたい、
あなたの声を聞きたい、
いますぐあなたを抱きしめたい。
あなたのそばにいたかった。
あなたともっといろんなところに行きたかった。
もっと二人で幸せを積み上げたかった。
あなたと家庭を築いてみたかった。
あなたの為なら死んでもいいとさえ思った。
なのに…
なのになんで!
なんであなたが死んでしまうんだ!
死んだら何もできないじゃないか!
死んだらあなたと手を繋ぐことも、抱きしめることもできないじゃないか!
緊張しながらデートをすることも、バカな話で笑い合うことも、もうできない、、、
なんで勝手に死んでしまうんだよ…
こんな運命なら最初から出会わなければよかったとさえおもった。
この世にホントに神様がいるのなら、
もし奇跡がおこせるならどうか彼女に会わせてください!!
一目でいい、一言でいい、彼女を見たい、彼女の声が聞きたい、彼女とちゃんと別れをしたい!
どうか………神様、
神様……
神様………
お願いします……
携帯を開くとあの遊園地で一枚だけ撮った写真が出てきた。
マリーゴールドの隣で麦わら帽子を被り、花と同じ色のワンピースを着た真理子さんがカメラを向いて笑っている。
相変わらずキレイな笑顔を見せる彼女は何故、俺を一人にしていってしまうのか………と問いかけたくなった。
悔しくて涙が止まらない。
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