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下津 成義 Ⅰ
駅のトイレで俺は鏡の中に映る自分を見ていた。
服の乱れ無し、髪の毛もいつもより念入りにセットしてきた。
フッ、思わず笑ってしまった。
妙に緊張している自分がおかしかった。
隣で手を洗っていた男性が怪訝な顔でこちらをチラッと見た。
目が合い、気まずくなった俺は待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせの時間より15分早いが、女性を待たせるなんて俺にはあり得なかった。
時間になり、女性陣は集まったが男側は一人遅刻している。
「わりぃわりぃ!」と言いながら彼がやって来たのは集合時間を10分過ぎてからだった。
俺の先輩であり、今日の幹事でもある彼は、面倒見が良く、話も面白いがたまに空気を読まず熱くなりすぎることが欠点なのだ。
居酒屋に入り、乾杯のビールを呑んだ。
当然とでも言うように幹事が立ち上がった。
「さっそくですが、自己紹介しましょう!まずは、俺から!!」
別に聞いてもいないことをベラベラしゃべり始めた。
俺は自己紹介もホドホドにして、ビールのおかわりを頼んだ。
トイレに立った俺は、フーッと息を吐いた。
どうもこういう人数が多い飲み会は苦手である。
席に戻った俺をよそにテーブルでは何かの話題で盛り上がっていた。
話においてけぼりにされた俺は3杯目に頼んだハイボールの残りを一気に 流し込んだ。
グラスをテーブルに置いたところで目の前の女性と目があった。
何を飲むのか、と
聞く彼女に俺は咄嗟に、ハイボール、と答えた。
どうやら彼女も話に入れなかったらしい。
そのあと、俺達は少し話をした。
話が盛り上がりかけたとき、店員がラストオーダーを聞きに来た。
実はこの時少しホッとした。
次の話題を探すのに困っていたのだ。
会計を終えた俺達は少し肌寒い店の外へ出た。
俺の目の前にはあの女性がいた。
「あの!」
俺は考えるより先に言葉が出てしまった。
「あの、連絡先交換してもらえませんか」
俺は相当強張った顔をしていたのだろう、
その子はひきつった笑顔でなんとか連絡先を交換してくれた。
別にその子を気に入ったわけではない。
ただ、なんとなく会話に入れなかった時に仲間意識みたいものが勝手に俺の中で出来上がっただけ……ただ、それだけの理由である。
翌日、あの子からラインが来ないか気にしていた。やはりな、、、ラインは来なかった。
こちらから送ろうと思った。
ただ、こういうときになんて送れば良いかわからなかった。
「可能性なし」
俺は友達に報告をした。
別にあの子を気に入ったというわけでもなかったから、あまり気にしなかったが、それでもラインが来ていないか何度か確認をした。
何日か経った、ある日の帰り道。
電車の中で携帯を見るとラインの通知が来ていた。あの子からである。
まるで小説のような長文に思わず、にやけそうになった。
すぐに返信を送り、窓の外を見る。
街行く景色をボーッと見ながら、あの子からの返信を待った。
思わずまたにやけそうになる。
なんだか、いつの間にかあの子からの返信を 待っている自分が いた。
別に気になっているわけではないが、悪い気はしなかった。
家に帰った俺は、いつも通りグラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぐ、すかさず炭酸を入れ、サッと混ぜる。
氷が小気味いい音をたてながら、回った。
ふと携帯を見ると、ラインが来ている。
ベッドに腰掛け、作ったハイボールをグビッグビッ グビッ と一気に流し込む。
あの子からのラインに返信しながら、ふと今日は休肝日だったことを思い出した。
まぁ良いことあった今日くらい飲んでもいいだろう!
俺は上機嫌にハイボールを呑んだ
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