下津 成義 Ⅶ

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下津 成義 Ⅶ

後日、ご両親から事故の詳細を聞いた。 遊園地からの帰り道、一方通行を逆走してきた車に轢かれたこと。 その車を運転していた男は酒を飲み、さらにクスリ、所謂、合法ドラッグといわれるものを服用していたこと。 その男は気が狂い、事故後も笑い続けていたこと。 未だに謝罪すらないこと………… 事故の話は聞くに耐えれず、ただ、悔しさばかりが積もっていった。 事故から3ヶ月が経っても俺はまだ、立ち直れずにいた。 家に引きこもることが多くなり、会社も辞めた。 髭も髪も伸び、もはや人間では無くなったようだ。 だが、今日だけはなんとしても外にでなければいけなかった。 8月7日は真理子さんの誕生日であった。 髪を切り、髭を剃り、身なりを整え、両親に教えてもらった真理子さんのお墓へ向かった。 ヒグラシが鳴く山中をBGMもかけず、車はひたすら登っていく。 墓に着き、線香をあげ、手を合わせる。 目を瞑ると不思議と真理子さんが近くにいる感じがした。 私のことを忘れてほしいとは言えない、、、 でも、私のことを忘れないでとも言えない、、、 自分勝手でごめんなさい。でも、前を向いてほしい。 ………………声が聞こえたわけではないが、そう言われた気がした。 間違いなく彼女はそう言っている。 不思議な夢を見たあの日、彼女はきっとさようならを伝えにきたんだと。 お墓を後にし、車を向かおうとした時、ふと遊園地のデートでした会話を思い出した。 …… 「マリーゴールドの花言葉って知ってる?」 「知らないよ。花言葉は何?」 「教えないよ!次のデートまでの宿題ね!」 彼女はイタズラっぽく笑っていた。 …… 携帯を取り出し「マリーゴールド 花言葉」と検索した。 花言葉は 「悲しみ」 そして 「変わらぬ愛」 車に戻ると心地よい風がフッと吹いた。 足元には一輪のマリーゴールドが風に揺れている。
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