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山口 謙二 Ⅰ
待ち合わせ場所のDEP FIVEは駅前にある商業ビルで屋上に観覧車があるから、よく待ち合わせに使われている。
憲治はDEPの向かいのビル2階にある喫茶店の窓から外を眺めていた。
ここなら待ち合わせ場所がよく見える。
「あと30分もある」
憲治はコーヒーのおかわりを頼み、パソコンを開き仕事を始めた。
しばらくして、外を見ると待ち合わせ場所には下津が来ていた。
「マジメやな、あいつ」
下津は謙二の仕事の後輩であった。
いいやつなのだが、モテなかった。
謙二はなにかと気にかけて出会いの機会を作ったがうまくいかなかったらしい。
今日も、彼のために、といっても過言ではない。
待ち合わせの時間になると自分以外全員集まっていた。
「俺があそこにいると仕切っちゃうからな、あいつらに頑張ってもらわんと」
謙二は遅刻していくことを最初から決めていた。ヒーローは遅れて登場するものだろう?
タバコに火を付けフーッと煙を吐き出す。
煙はモクモクと上がって、やがて消えた。
この人が田所恵梨だな、合流し、すぐにわかった。
小柄で茶髪、メイクに若さが残る。
ということは、もう一人の落ち着きがある女性が花野真理子さんか。
事前に恭子からもらった情報通りだった。
恭子とは、合コン仲間みたいなもんで、合コンをするときはお互い幹事をしてメンツを揃えるのがお決まりだった。
友人ほど親しくはなく、赤の他人というほど遠くはない距離感を保っている。
居酒屋につくといかにも自然な流れで適当に席につく。
計算通り、謙二は恵梨の前に座り、下津の前には真理子さんを座らせる。
あまりにも自然の流れで自分で自分を誉めてやりたいくらいだ。
下津は人数のいる飲み会は苦手だ。
謙二は恵梨に話しかけ恭子達も巻き込み、下津、真理子達が話題に入れないように壁を作った。
ここからは俺の独壇場。
中身のない話を永遠に語るのは得意だ。
下津達は、最初は気まずそうにしていたが、徐々に真理子さんと話し始めていた。
「ラストオーダーのお時間ですが、」
いい感じのところで店員がやってきた。
会計を終え、外に出ると下津が連絡先を聞いている。
お、頑張れよ!後輩!!、謙二は心の中でエールを送った。
解散した後、謙二にはもうひとつやることがあった。
店前に立っている小柄な女性。
「恵梨さん!」
声をかけると驚いた表情でこちらを見ていた。
「さっきはありがとうございました。僕ばっかり話してしまってすみません。」
謙二はいかにも申し訳なさそうに謝った。
とんでもないです、恵梨は胸の前で両手を振り全然大丈夫というアピールをしている。
「スゴい面白かったです!!ガンダムの話はわからなかったけど、、」
恵梨は微笑んだ。
「僕ばっかり話してしまったんで、恵梨さんの話を聞きたいんです。よかったらこの後二人で飲みに行きませんか?」
恵梨は少し困ったような顔をしたが、
「行っちゃいますか!」と嬉しそうに言った。
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