田所 恵梨 Ⅱ

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田所 恵梨 Ⅱ

落ち着いた雰囲気のbarで、ボンドマティーニを一つ、と謙二がオーダーしている。 「恵梨さんは?」 こういう店ははじめてで何を注文したら良いかわからなかった。 えーっと、、、困っていると 「彼女にはアルコール低めの甘いやつを」 謙二が注文してくれた。 「かしこまりました。」 マスターは静かに頷きカウンターの奥に移動した。 barでの謙二は居酒屋のときとは違い、紳士的であった。 どれほど時間が経ったのだろう。 「そろそろ出ようか」 店内に恵梨と謙二以外客の姿はなかった。 「マスター、ご馳走さま。チェックで。」 手慣れた様子で謙二は支払いを済ませていた。 マスターが扉を開け店の外まで見送ってくれた。 「またのお越しをお待ちしております。」 マスターはまた静かに言った。 恵梨はこの店がどこなのか、今どこを歩いているかわからなかった。 全て謙二に身を任せていた。 「…寒い」 もうすぐ夏とはいえさすがに夜になると冷えた。 「すっかり遅くなってしまったね。」 謙二は落ち着いた様子で言った。 「もうすぐ終電の時間だ。駅まで送ろう。」 当然、といった様子で言う謙二の横で恵梨は思わず、 へ?、と力の抜けた声を出してしまった。 そして、この後の展開を期待していた自分に赤面した。 謙二は最後まで紳士的であった。 恵梨が電車に乗り、出発するまで見送ってくれた。 なにやってるんだろう、、、彼氏との約束を破り、謙二に見とれて、変な期待をして、、、 自分が恥ずかしくなった。 最寄りの駅に着き、家までの道を歩いた。 夜風が身に染みた。 翌朝目が覚めると時計は11時を指していた。 昨日は帰った格好のまま、寝てしまったらしい。 携帯を見ると彼氏からラインが 「お前、浮気してるだろう」 一気に目が覚めた。 なんのことかわからない。 「してない!どういうこと?」 心拍数があがり、心臓がバクバクしている。 「じゃあこれはなんだよ!!!」 彼氏からは写真が何枚も送られてきた。 居酒屋を出た恵梨、謙二と話す恵梨、謙二と歩き出す恵梨、 barに入る恵梨、カウンターで話す姿、電車に乗って手を降っているところまで! 誰? 誰がいつ撮ったの? 何のために?? 恵梨は混乱し、訳がわからず茫然としていた。 「もう終わりにしよう」 彼氏からのLINEの通知が空しく鳴り響いた。
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