真っ直ぐに愛する力

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真っ直ぐに愛する力

クーヤの黒い背中は突き刺さる太陽の熱に焼かれ 無残にヒビ割れ やがて溶けて跡形(あとかた)もなくなった その夜 清い蒼い月の光が ガタガタ虫を包んだ ひとまわり大きくなったガタガタ虫の体を包んだ 得体のしれない力が(みなぎ)って クーヤは 目覚めた 大きく羽を広げると今まで感じたことのない心が クーヤの向かう空いっぱいに明るく広がっていた この世界に宿るすべての命が自らの細胞のようだ 力強く羽ばたいたクーヤの耳に響く懐かしい羽音 カシャカシャいう変な羽音は ガタガタ虫の羽音 クーヤは風のない鏡面のような湖に 姿を映した そこに映っていたのは 大好きなガタガタ虫の姿 クーヤは湖畔の木に止まり自分の魂に問いかける 真っ直ぐに愛することの記憶がいっぱい詰まった 魂は 真っ直ぐに愛する力を持ったクーヤの魂と 一つになって 新しいガタガタ虫が生まれたのだ 助けて・・・と 倒れた大木の折り重なる下から 誰かが呼んでいる ガタガタ虫になったクーヤは 迷いなく 命の悲鳴を聞きつけて そこへ向かう 清い月の光は生まれ変わった救世主を包んでいた   完
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