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動かない
夜は白々と明け始め ひんやりとした霧が
湖の上を覆い 夜行性の虫たちは眠りについた
一陣の風が サーッと吹き抜けた時だった
弱り切って身動きできずにいた ガタガタ虫の体は
アッという間に吹き飛ばされて
湖に近い草むらの 枯葉の中へ カサリ と 落ちた
クーヤは驚き 急いで ガタガタ虫のそばへと飛んだ
ガタガタ虫は枯葉の上に仰向けにひっくり返っていた
朝露で濡れた枯葉は ベトベトしていて気持ちが悪い
このままにしておくと体が腐ってしまうかもしれない
クーヤは大アゴで ガタガタ虫の体を持ち上げ裏返し
力いっぱい引きずって 大きな木の 根っこの陰まで
ガタガタ虫を運んでいった ガタガタ虫は 動かない
「神さま お願いです!ガタガタ虫を助けて下さい」
クーヤは明るくなっていく空を見ながら 神さまに祈った
ガタガタ虫の傷口は 下に落ちた衝撃で 泥で汚れている
大変だ! クーヤはまた 一つ一つ傷口を 涙で清めていく
クーヤの涙が傷に落ちると 傷は不思議な黄緑の光に包まれた
ほんの少しの間 おしゃべりしただけなのに ガタガタ虫は
どうしてボクを助けようとしたのだろう?
もしかすると もう死んでしまったかもしれない
ピクリ とも動かないガタガタ虫に寄り添って クーヤは泣いた
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