死がうつるぜ

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死がうつるぜ

暑い日射しが照りつける昼は ガタガタ虫を守るため クーヤは 草や枯葉を集めて 風通しのいい日陰を作った 雨が降り続く時は ガタガタ虫が流されてしまわないように クーヤは 力を振り絞ってガタガタ虫を木の(ほこら)へ運んだ 風が強い日は ガタガタ虫がまた吹き飛ばされないように クーヤは 自分の脚で踏ん張って ガタガタ虫を押さえ続けた 寒さで凍えそうな夜は 安全な木の根の下に 深い穴を掘って  土の中で クーヤはガタガタ虫に寄り添って 祈り続けた ところが何日たっても ガタガタ虫は ピクリとも動かなかった 木の蜜を運んできて ガタガタ虫の 目の前においても 清潔な草の朝露を ガタガタ虫に与えても  まったく何の反応も示さず ガタガタ虫は 固まっていた 他の虫たちはクーヤをバカにして なじり出した 「いつまで 死んだ虫の世話してるんだ? 気が違ったか?」 「もともと頭おかしいと思ってたけど そこまで狂ってるとはな」 「死体に寄り添ってたら 死がうつるぜ おまえもそろそろだな」 クーヤは みんなが何と言おうと ガタガタ虫の世話を続けた クーヤは ガタガタ虫は 必ず生き返ると 信じていた  クーヤは 毎日 泣いて泣いて ガタガタ虫の傷を涙で清めて クーヤは 神さまに こう お願いし続けた 神さま ボクの命を毎日少しづつ ガタガタ虫に分けますから どうか ボクが死ぬ前に ガタガタ虫の命を お助け下さい ボクは ガタガタ虫が元気になるなら 命は惜しくありません あの時 オオスズメバチ Z の 一撃を食らっていたら ボクは もう 生きてはいられなかった もう とっくに死んでいた そのボクを護ろうとした ガタガタ虫が 死んでしまうのは 絶対にイヤなんです ボクは絶対にガタガタ虫を死なせない クーヤの涙が傷に落ちると 傷は不思議な金色の光に包まれた
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