降りやまぬ雨

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降りやまぬ雨

厳しい寒さの冬が過ぎゆき 春は巡ってきたけれど クーヤとガタガタ虫が眠る森では寒さが続いていた 南からやって来るカッコウもウグイスも未だ現れず やっと咲いた桜の花さえ突然の吹雪に凍えて散った 気温が上がらぬまま梅雨が始まり 雨が降り出した 雨は何日も何日も降りやまず 湖から流れ出る川は 水位が上がり それでも雨は降り続き川は氾濫した 川が氾濫しても一向に降りやまぬ雨 降りやまぬ雨  とうとう湖の岸壁からあふれ出た水は森に流れ込み クーヤとガタガタ虫が眠る朽ち木の下まで押し寄せ 木の根を支える土や石や草の根まで洗い流し始めた このままでは 森の木はすべて押し流されてしまう それでも雨は降りやまず まるでノアの箱舟の風景 辺り一面が水浸しになって湖のほとりの木々は倒れ 倒れた木々が押し寄せる力で森の木々はドミノ倒し クーヤとガタガタ虫が眠る朽ち木もとうとう倒れた 倒れた木々は風雨にさらされ流されて湖の南の端に 寄せ集まり泥まみれになって高く折り重なっていた クーヤとガタガタ虫が眠る朽ち木は 朽ち木だから 他の木々よりも軽く 高いところに押し上げられて 雨には濡れても湖に沈むことなく空洞を保っていた クーヤとガタガタ虫は寒さが続き 眠り続けていた 降りやまぬ雨が森を破壊し 朽ち木を倒したことも 何も知らぬままクーヤは長い長い夢を見続けていた
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