無償の愛

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無償の愛

クーヤの長い夢の中で ガタガタ虫は相変わらず 傷つき弱った虫たちを護り 心無い虫に攻撃され 全身傷だらけになりながら 助けた虫の愛の力で より強く大きく復活することを 繰り返していた クーヤは ガタガタ虫の無償(むしょう)の愛に 心を溶かした ああ こんな虫になりたい と 魂が震え 憧れた 自分の小さな体が恨めしかった ガタガタでもいい もっと大きく強くなって救いを求める心を護りたい まるで地球が泣いているかのような降りやまぬ雨は 泣き疲れ もう一滴の涙さえ出なくなった ある朝  空には一抹(いちまつ)の雲さえなく どこまでも澄んだ(あお)い空 (さえぎ)るものが何一つない空から 地上へ届く太陽の熱 急激な温度変化は泥と細菌に(おお)い尽くされた地上に (おぞ)ましい腐敗をもたらし (わず)かに生き残った命さえ (やまい)へ 死へと 不運の追い打ちに流れ落ちていった 灼熱の太陽は怒れる神の如き仕打ちで地上を照らす 熱さに目覚めたクーヤは ガタガタ虫に声をかけた 『起きてよ このままじゃ本当に死んじゃうよ!』 ガタガタ虫はうっすらと目を開けて 力なく言った 『オマエは逃げろ オレにはもう 飛ぶ力がない』 自分だけ逃げるなんて そんな悲しいことできるか クーヤは力をふりしぼり越冬していた小部屋の壁を ガリガリと押し広げ天井の両脇に風が通る穴をあけ 動けないガタガタ虫に幸せの風を届けたいと思った けれども降り続いた雨と 照り付ける太陽の熱とで スカスカになっていた朽ち木の (もろ)くなった天井は 疲れ切ったクーヤの背中に 残酷に崩れ落ちてきた 天井を失った小部屋を ジリジリと照りつける太陽 黒い体に突き刺さる 地獄の炎のような太陽光線は 必死で動き続けるクーヤの体力を刻一刻と奪い続け 持てる知恵と力の すべてを出し切った クーヤは 最後の力をふりしぼり ガタガタ虫の背中に乗った 自分の体を焼き尽くしても ガタガタ虫を護りたい せめて この体が ほんのわずかでも 太陽の熱を 遮る盾になれるならと クーヤは一筋に祈りながら ガタガタ虫の背中に乗って やがて動かなくなった
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