その後1  ミステリーデートのゆくえ

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その後1  ミステリーデートのゆくえ

  『だから、明日の朝9時、瑠璃さんの部屋に集合。約束だよ、じゃ』 「えっ、あ! まっ……」  満足な説明もなく、ただ不気味な予感を残して通話は切れた。  高校生でいられる最後の週末。あと一週間たらずで卒業式を迎える。苦しい受験の日々は終わり、俺と秦は地元の大学へ無事に合格を果たした。もっとも、秦にとっては当然の結果である。そして、以前から約束していた「デート」がついに実行される時がきた。  忘れていたわけではなかったが、忘れられても構わなかったのであえて話題にしなかった。なのに、突然電話がかかってきて明日だと言い出す。しかも集合場所が我が家。そして廊下を隔てた姉の部屋……。     い、嫌な予感しかしない!  スマホを抱えたまま部屋のなかをうろうろする。少しの勇気を固めるも、忍び足で廊下へ向かい、音を立てないよう扉を開けた。姉のことだから、普通に尋ねたところで答えてくれまい。かといって秦に聞き返しても無駄なことは分かっている。秦は、姉とつるむようになって横暴な所が似てきた。二人の関係は相変わらず謎だが、仲は良い。いっそ男女の関係になればいいんだ。そうしたらきっと、俺とひー兄は静かに過ごせる。  あぁ、思い出すだけでイライラする。  この数か月は受験がメインだとひー兄に諭され、あまりデートも出来ず、エッチは週末だけというルールまで設けられた。とはいえ毎週必ずというわけでもなかった。そんな中でも合間を見つけてはイチャイチャし、時間を作って喫茶店へ繰り出し、夕食後はソファで愛を育んだ。が、受験生であってそうではない秦は「僕は紺の先生だから」としょっちゅう家へ泊まりに来た。勉強を見てくれるのは有難かったが、同時に嫌がらせもあった。それも姉と結託するので質が悪い。ひー兄と出かけようとすると同行するし、ソファでキスをし合っていても構わず入って来てはテレビを点ける。  そう、あの二人は俺とひー兄が恋人モード全開って時でも平気な顔でやってくる。  前なんてひー兄、本気で怒っちゃって大変だった。二人がいるにも関わらず、俺をソファへ押し倒してキスを続けた。ひー兄が壁になっているとはいえ、上着を捲られた時にはさすがに抵抗した。  いっそ、荷物をまとめてひー兄の家に住もうかと考えている。  中腰のまま姉の部屋を睨み、数々の恨みに想いを馳せていた時だった。眼前によく知る、俺の大好きな顔が視界を塞いでいた。 「うぁっ、ひっ、ひー兄っ!!」 「何やってんだお前?」  無様に尻餅をついて驚いてみせると、ひー兄は眼鏡のブリッジを上げて首を傾げる。 「風呂はどうなったんだ? 先にあっち行って準備するんだって意気込んでただろ?」 「あっ! あ、あー……」  食後の片づけをするひー兄と別れて部屋へ駆け込んだのは、お泊りセットを支度してあちらの家へ行くためだった。「お風呂沸かしてくる!」とひー兄に宣言までしていた。なのに、その途中で秦から電話が入って悶々として、今に至る。 「今夜はやめとくか?」 「や、やめない! する! ひー兄とエッ、むぐっ!?」 「あー、分かった分かった。全部言わなくてもいいから。な?」  口を塞がれながらコクコク頷くと、「フッ」とひー兄が頬を緩めるので、俺もヘラヘラ笑う。 「んじゃ、行くか」 「うん!」  結局いつものごとくひー兄が着替えを用意してくれた。おろおろとしていると肩を抱き寄せられて、誰もいないのに周囲を一応見てからその胸に飛び込んだ。 「で? なんで瑠璃の部屋睨んでたんだ?」 「えっ、あ、えーと、後で……説明する」 「そうか?」 「うん」  せっかくの甘い雰囲気を壊したくないので、後回しだ。  ひー兄の家に着くと、すぐに浴室へ向かった。俺は洗濯機の上に座らされ、ひー兄に服をはぎ取られていく。お揃いのネックレスは一旦外す。これといった会話もなく、ひー兄の視線と指先、唇によって性感を高められていった。  陶然とした状態で浴室へ運ばれ、身体をくまなく洗われた。湯船の中では向かい合ったり、後ろから抱いてもらいながら気が遠くなるほど浸かって、お互いの精を一度は吐く。  その後の流れも決まっている。  ネックレスの指輪を指にはめ、場所を寝室へ移す。布団の上におろされるとすぐにキスが始まる。足のつま先まで丹念に愛撫され、身体が面白いくらいビクビク跳ねた。声なんて、自分とは思えないほど甘ったるくて、女の子みたいだった。  乳首を吸われるのも、精を吐き出す器官を口で扱かれるのももう、慣れた。かといって余裕があるわけではなく、毎度転がってひー兄に全てを任せた。そろそろ俺だってお返しがしたい。ひー兄のものは立派な太さと長さを誇っているが、半分くらいなら口に含めると思うんだ。   「ね、ねぇ、俺もしたい。ひー兄の、口でしたい」  腹筋をするように下半身へ顔を向けた。ひー兄はちょうど、達したばかりの俺のものを口から抜いたとこだった。無造作に口元を拭う姿を見て、放出したばかりの熱がカーッと集まる。 「あっ……ん」  ひー兄の手が、腹に散った精液を拭いとる。それだけの行為が刺激となって、腰がじんじん痺れた。 「お前はそんなことしなくていい。俺のやりたいようにやらせてくれ。な?」 「……う、うん」  不意に、ひー兄が身体をずらして俺の頭上までやってきた。自然、ひー兄を受け入れる為に今よりもっと足を左右に広げ、浮かした。 「今夜も、挿れるぞ?」  その声は熱っぽく掠れていた。何のことかすぐに察し、羞恥に染まる顔を横へ倒し、曖昧に頷く。  顔に降り注ぐキスの雨。と同時にひー兄の手が、俺の腰を撫で、前ではなく後ろ、双丘の割れ目へと下る。 「っぁ、ぁ……ん」  ひー兄の長くて綺麗な指が、不浄とも呼べる隘路を進む。何かを突っ込むような場所ではないのに押し広げ、こじ開けるように根気よく手を動かす。  この、よく分からない行為は二月の末から始まった。今夜で三回目になる。「そろそろ準備が必要だ」と言っていたけど、何の準備か分からない。もう少ししたら教えるけど、まだ駄目だと妙に勿体ぶるんだ。 「紺、指増やすぞ? いいか?」 「やっ、ぁ……ひぃにぃ、あぁっ」  ただ、エッチというのは果てのないミステリーで、まだまだ未知の世界が広がっていると思い知る。だって、お尻を弄られてこんなに気持ちがいいなんて誰にも聞いていない。みんな知ってる?    そして、気を失うまでひー兄に抱かれ、例のことを忘れたまま朝を迎えた。
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