28人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
ナナセのアパートからコンビニまで十分。帰りに白い空は水色になり、建物との境界線をくっきりと描いていた。西の方角にやや存在感のある雲が連なり、昨日のビニール傘をどこにやったかと、アパートの扉に手を掛けた。
「うぉっ」
先に扉が向かって来て、鼻をぶつけた。
「アサト、コンビニいくんだったら、起こしてよ」
「痛い」
「あ、ごめん、打った?」
玄関に入ると、ナナセがジーンズを脱ぎ出した。
「え、何脱いでんの?」
「逆になんで脱がしてくれなかったの?」
なに言ってんの?
俺は持っていたビニール袋を落とした。
「ちょっと、これ見て、この赤いアザ」
ナナセはジーンズを下げ、着ていたシャツを上げた。横腹のところに線を引いたような、赤いズボンの跡が残っていた。
「このズボンさ、動いてる時はいいんだけど、寝たらキツいのよ。ベッドに運んだ時に脱がして欲しかったなぁ」
「あ、そっち」
「そっちって何」
「なんも」
落としたビニール袋を拾って、ベッドの横のローテーブルに置いた。1DKの部屋にごちゃついた色気のないプラモデル。迷彩柄の戦車を持って、床に座った。
「こーゆーのが、なんか違うんだよな」
「違うって何よ、最高にかっこいいじゃん」
「いや、かっこいいよ。それは認めるけど、女の子で戦車持ってるのナナセぐらいだよ」
「あ、女の子扱いしてくれるの?」
「言葉のアヤだ、今のは」
「あ、そー」
変な沈黙。
昨日の夜のナナセが発した甘えたような声が忘れられない。あんな声、俺は聞いたことがなかった。少なくともあの声で、俺の名前を呼んだ事はない。
最初のコメントを投稿しよう!