透明パラソル

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 ナナセのアパートからコンビニまで十分。帰りに白い空は水色になり、建物との境界線をくっきりと描いていた。西の方角にやや存在感のある雲が連なり、昨日のビニール傘をどこにやったかと、アパートの扉に手を掛けた。 「うぉっ」 先に扉が向かって来て、鼻をぶつけた。 「アサト、コンビニいくんだったら、起こしてよ」 「痛い」 「あ、ごめん、打った?」 玄関に入ると、ナナセがジーンズを脱ぎ出した。 「え、何脱いでんの?」 「逆になんで脱がしてくれなかったの?」 なに言ってんの?  俺は持っていたビニール袋を落とした。 「ちょっと、これ見て、この赤いアザ」 ナナセはジーンズを下げ、着ていたシャツを上げた。横腹のところに線を引いたような、赤いズボンの跡が残っていた。 「このズボンさ、動いてる時はいいんだけど、寝たらキツいのよ。ベッドに運んだ時に脱がして欲しかったなぁ」 「あ、そっち」 「そっちって何」 「なんも」 落としたビニール袋を拾って、ベッドの横のローテーブルに置いた。1DKの部屋にごちゃついた色気のないプラモデル。迷彩柄の戦車を持って、床に座った。 「こーゆーのが、なんか違うんだよな」 「違うって何よ、最高にかっこいいじゃん」 「いや、かっこいいよ。それは認めるけど、女の子で戦車持ってるのナナセぐらいだよ」 「あ、女の子扱いしてくれるの?」 「言葉のアヤだ、今のは」 「あ、そー」  変な沈黙。  昨日の夜のナナセが発した甘えたような声が忘れられない。あんな声、俺は聞いたことがなかった。少なくともあの声で、俺の名前を呼んだ事はない。
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