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それから俺とナナセは毎週、週末にデートをするようになった。
アミへの気持ちは水グラスの底が割れたように、ゆっくりとどこかに流れていくようだった。ヒビの入ったグラスは残るけれど、溜まった水は入れ物にヒビが入ればその場で留まる事が出来ない。時間とともにじわじわと流れ出る気持ちの行方はかすむように、ナナセとの時間がそれを加速させてくれた。
デートをし始めた週末から一ヶ月が経った。いつものアパートへの送り際、ナナセに言った。
「ナナセが毎週付き合ってくれたおかげでなんか気が楽になったよ」
「それは良かった。でも、そもそも、アサトはさ、気が優しいから時間が経てばアミちゃんの事も自然に消化できたと思うよ」
私とデートしなくても、とナナセは付け足した。
「そうじゃない。ナナセと一緒に過ごして、だいぶ気分転換になった」
「だから、もう、週末のデートはおしまい?」
ナナセがあっさりと笑っていうので、違う、と俺は首を振った。
「来週、ちょっといい所で食事をしよう。その後、言うから」
もうこの言葉で言ったようなものだったけれど、色気のない彼女にこのニュアンスが伝わるかどうかは微妙だった。
「いい所? じゃあ、私、白ワインが飲みたい」
「そっちに食いつく?」
「そっち?」
「いや、いいよ。分かった。白ワインね、了解」
俺は返事をして、家に帰る途中にスマホで白ワインが美味しい店を検索した。
駅からなるべく遠めで、終電ギリギリまで開いている創作フレンチ店を。
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