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約束の日は雨だった。降水確率は明日の朝まで100%。やまない雨の予報。家にビニール傘が見当たらず、ナナセの家に行く前にコンビニで傘を二つ買った。
彼女を迎えに行くと、玄関に忘れていた傘を見つけた。
「アサトが忘れた傘があったのに」
「ここにあったのか」
失恋した次の日に透明人間になりたいと願った傘。今はあの時の感情と違うけれど、緊張するから透明になりたい。悲しい気持ちをなんとか誤魔化す事が出来たのはナナセの存在のおかげだった。その気持ちを伝えたい。
「アサト、」
ナナセは化粧をし、タイトなネイビーのワンピースを着ていた。
「女の人に見える」
「失礼ね、生まれた時から女です」
「そ、だな」
綺麗、可愛い、似合ってるよ。俺と食事をする為にお洒落をしてくれて嬉しい、思うが言えない。耳で揺れるきらきら光るピアスは乱反射する雨雫にも見える。
俺達は傘をさして、店に向かった。
「少し距離があるけど」
「駅から遠いの」
「うん、遠い」
「ふーん」
二人で並んで、駅とアパートの方向から遠ざかる。並ぶ二つのビニール傘を雨がとんととん、とリズミカルに叩く。
「ね、アサト、透明パラソルって覚えてる?」
考えが見透かされたようで、どきっとした。
「ああ、覚えてるよ。小学生の頃に流行ったよな」
「うん、流行ったね。帰り道に一緒にしなかった?」
「ナナセと? したっけ?」
「したよ。大体じゃんけん弱いアサトが一番に透明パラソルになってたよ」
「そうだったな。雨上がりの限定の遊びだった」
「そうそう、傘を振り回さずに壊さないようにって、私のお母さんが教えてくれた遊び」
「ナナセの母親が考えたっけ?」
「そうだよー。私が帰り道で傘を何本も壊して帰るから『どうせならさして帰って来なさい』って怒られたのが始まり。やり始めたら、学校中で流行ったからびっくりした」
「そうだったのか」
「アサト」
「なに」
「今、雨降ってるけど、透明パラソルごっこしない?」
「え、今?」
「うん、いいけど」
隣を見ると、自分が言い出したのに、ナナセは少しだけためらいの顔。
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