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「じゃあ、透明人間スタート。………実は、私も一ヶ月前、失恋したの」
「……ショーヘーか」
「透明人間の言葉には反応してはいけないルールだよ」
「あ、ごめん、じゃ、どうぞ続きを。透明人間さん」
「好きって気づいて、付き合った後に奥さんが居るって知った」
思わず声が出そうになった。
「ダメだって思って、なんとか気持ちを抑えて、必死の思いで別れた。アサトと久しぶりに飲んだ前の日」
だからあんなに痩せていたのか。
一ヶ月経った今の彼女は少しだけ顔がふっくらとしている。
「アサトの話もしっかり聞かなくちゃ、励まさなくちゃって思ってたんだけど、一緒に居て励まされたのは私だった」
「今日は失恋から完全に立ち直ったお礼で、いい所に食事を誘ってくれたのかもしれないけど……」
ナナセは俺の目を見た。
慣れない化粧は近くで見ると、下唇のグロスが少しだけはみ出ている。
「アサト、ありがとう。もっと一緒に居たい」
あの夜、アパートに運んだ時に発した、甘えたような声。
「………以上、透明人間終わり」
もっと聞きたかった声はサッと終わり、いつもの声色になった。
ーーー完全にやられた。
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