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「じゃあ、次は俺の番」
「え? アサト?」
「俺も透明人間になるから、黙って聞いて」
ナナセは頷いた。不安そうにゆらぐ瞳。
「ナナセは俺より力も強いし、判断も正しいと思ってた。けど、俺の知らない顔をして、知らない声で違う男の名前を呼んだの聞いて、勝手なんだけど、アミが結婚するって聞いたよりショックだった」
「でも、俺の歴代の彼女も知ってるし、俺に恥じらう事もないから、気持ちを伝えても笑われると思った」
「笑わないよ」ナナセが言った。
「うん、笑われないって事はさっき知った」
「あ、返事しちゃった」
「あ、ほんとだ」
「二人で透明人間になればいいんじゃない?」
いたずらっぽくナナセは笑った。
「それはもう透明じゃないな? そもそもごっこ遊びだし」
「じゃあ、二人で透明パラソルするの、そうすればーーー」
最後まで言い終わる前に、彼女のはみ出したグロスが近づいて来た。
―――そうすれば、お互いしか見えないよ。
「……好きって、先に言わせて」
俺は傘の柄を握りしめた。
やまない予報の雨音を聞きながら、雨の色より濃いネイビーのワンピースの腰を、ゆっくりと引き寄せた。
End.
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