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「好きになったって、相手が同じ気持ちを返してくれるとは限らない」
「うん」
そうだ。その通り。
その証拠に、俺とキスした後、彼女は何でもなさそうにさらっと言った。
―――結婚するの。もう一人の年上の彼が栄転するから着いてくの、って。
そのもう一人の彼は、取引先の主任で、年収は俺よりも多くて、ついでに身長も10センチ高い、と付け足し、駄目押しは容赦がなかった。
「うん、じゃなーい。女を見る目がなーい。でも、結婚までしなくて良かったね。二股が結婚した後に判明したら修羅場だよ」
「うん、ナナセはいつも正しいよ」
「正しくたって、恋愛は正解だけ選んでも上手く行くものじゃないでしょ? アサトの場合は間違いだらけだけど」
ボーイッシュな彼女は、この話は終わり、とあっさり立ち上がった。
しゅっとした背筋と癖のない短髪はいつ見てもナナセの性格を表しているかのようで。
「今日は、どこ、食べに行く?」
「今日は、傷心だから…」
「じゃあ、お酒ね。居酒屋いこ」
言葉を発する前に、ふわっと正解を嗅ぎ取られてしまった。予想を反して、ナナセは俺の事を笑わなかった。情けない顔をしていたはずなのに。
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