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女は恋を重ねる毎に綺麗になり、男は恋をする度に擦れていく。俺の意見じゃない。ナナセはそう言って、梅酒ロックをすっと持った。とろりと琥珀色の液体が揺らぎ、細かい気泡は旋回し水面から顔を出した。
「アサトは優しすぎるから、女が調子に乗るのよ」
「優しいつもりはない」
「あ、違う、優しいは褒め言葉だ。優柔不断? はっきりしない? でも、どうしても、女は甘えるのよ、その、えっとやっぱり優しさに」
「例えば?」
「浮気しても許してくれそう、わがまま言っても受け入れてくれそう、無条件に私を好きでいてくれそう?」
冗談だろ、そんな男はどこにもいない。
「ま、恋もしてない私が言うのは違うけどね」
「うん、それは思う」
「そこだけ返事をはっきりといい切らなくてもよろしい、はい飲んで」
「飲むけど………、あ〜、俺はしばらくこれを引きずりそうだ」
「じゃあ、逆療法してあげよっか」
「何、その逆療法って」
「私がずっとそのアミちゃんの名前を呼んでてあげる、朝まで」
「罰ゲームか」
「違う違う、名前を聞いても平気になるように」
「ひど過ぎる」
「そうね、じゃあ、夜中までにしてあげようか」
「勘弁して。俺、今優しくして欲しいんだって」
あ、そうなの、とナナセは今、気づいたようなふりをした。
「じゃあ、今日はとことん優しくしてやるよ」
限られたイケメンしか許されないセリフが投げられ、傷心でなければ笑う所を、今日はノリきれない。
「優しくしてね、しか言えない」
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