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飲んで、飲んで、しっかり飲みつぶれたのは失恋した俺ではなくナナセだった。彼女のやや筋肉質な体を支えて、アパートに入った。
部屋を間違えたのかと思うほど色気のない、分厚い推理小説とヘリコプターのプラモデルが床を占拠していた。
ベッドに彼女を寝かせると、ショーヘー、と俺が聞いた事もない甘えた声を出した。
「は?」
「ショーヘー、泊まってってよ」
「俺はアサトだけど」
聞き直さなきゃ良かった。
何が悲しくて、恋人に捨てられ、唯一の女友達の口から知らない男の名前を聞かなければいけないのか。
傷心だと息巻いていた気持ちが、ナナセの口から出た知らない男の名前に止めを刺された気持ちになった。俺はもたれかかるようにベッドの横に腰を落とした。背中越しに寝息が聞こえ、あー、と頭を持つ。
後ろから、すー、すーと不規則で、良く知った呼吸音が聞こえた。
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