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「おい、ナナセ、起きろよ。……痩せすぎじゃないのか」
「……あ、寝て、た? ……なに、痩せ、すぎ?」
「最近、食ってんの」
「あ、ご飯? 食べてるよ。でも、あんまり食欲なくって」
「ふーん。ただでさえ、筋肉女なんだから、ちょっと脂肪つけとかないとーーー」
抱きしめたときに柔らかくない、と言い掛け、やめた。
俺は何を言おうとした。今までそんな目で彼女を見たことなんてなかったはずだ。
「何よ? アサトはもっと筋肉つけた方がいいよ。シュっとしすぎて、女からしたら頼りなく見えるし」
「それより、さっきの、ショーヘーって誰?」
ナナセはぎょっとして、俺を見た。
「そんなの言ってない」
肯定にしか見えない表情に、否定の言葉なんて飾りのようなもの。
「呼んだよ。男の名前。ナナセの恋愛相手?」
「……違う。人には向き不向きがあって、私には恋愛は向いてない。恋じゃない、だから、違う」
俺はこんな困って小さくなる彼女を知らなかった。記憶の中でナナセはいつも俺より強く、正しかった。
でも、違う。
今の目の前にいる彼女は、れっきとした「女性」だった。今まで自分が一番ナナセの近い場所に居たはずだった、なのに。
「恋して女は綺麗になるんじゃなかったのか?」
「……その恋が正しければ、ね」
「正しい恋じゃないって事か……俺の事、言えないな」
ナナセはもう一度だけ小さく呟いた。
「これは恋じゃないのよ」
その顔は、俺の知らないナナセで。
どう見ても、女性が去り際に浮かべる表情だった。
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