あまりにも遅いから、もうアイツのことは忘れようと思います

8/10
前へ
/10ページ
次へ
出来上がったのは、この店の雰囲気には似つかわしくない野菜炒め。 「これは……」 「俺の、唯一の自慢料理だ」 「喫茶店をやるのに?これしか作れないんですか?」 「自慢料理と作れる料理がイコールとは限らないだろ、まあ食ってみ、うまいから」 あまりにも押しが強いので、まず一口ぱくり。止めようと思った箸が、勝手に二口目と進む。 「どうだ?」 「……まあまあ」 「態度に出てるぞ」 「お客様に言うセリフ?」 「ははは、金払ってくれる?」 「勝手に飲ませて食べさせて、それで金とるってどこの悪徳業者ですか、訴えますよ」 「冗談冗談。ワンピースのお詫びだから、全部サービス」 そう言うと、男はまた私の隣に座る。 「なんで、さっきから私の隣に座るんですか?」 「今そう言う時代でしょ」 そう言われてしまうと、否定はできない。 けれど、ただでさえ男性が至近距離にいる経験が短い私にとっては、なかなかの苦行の時間。心臓の音が相手に聞かれでもしたら、舌を噛み切りたい。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加