【民権員】~私全《しぜん》を愛する者たち~

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「しかし… 法を行使するにあたって、我々民権員の印判が絶対だ!! 私はご子息を確認させていただけない限り、お力添えは出来かねます」 「な、なんだとぉ!!」  この法には、落ち度を付けるための公約等を示されていない。人権団体が黙ってないからだ…   決着は当人間と言う、曖昧さで私全法(しぜんほう)は成り立っている。傲慢な相手には譲歩し、いかに軽い条件を飲んでもらえるかがカギになる。  それに味を占めた悪党たちは恫喝や恐喝に近い手段を取るのだ。しかし私は屈しない。  合気道七段、空手六段、柔道五段… いじめっ子に負けないように力を付けた甲斐があった。恫喝には恫喝を… 俺の認定印は、真に認めた者にしか押さない。  …それを今まで破らなかったからこそ伝説になったんだ。 「あなたではなく、あなたのご子息を救いたい。あなたに出すお金は、ビタ一文ございません」 「いいのか? そんなこと言ったら、色んな方面を敵に回すことになるんだぞ?」 「構いません。我々は世論を味方にしてみせます… 血税を預かっているんです、財布をね」 「く、くそ!! …そ、そうだ!! 議員の知り合いもいるんだ!! あの人なら不当にも屈せず、お前なんて捻りつぶしてくれるだろう」  来た… バックにはヤバい奴ついてますよパターン。何度もあったが今までバックのヤバい人をお見かけしたことがない。悪党の常套句と言ってもいいだろう。 「そうですか、それなら話が早い。お言伝を頼みます。(わたくし)川上は逃げも隠れもしませんので、私全法(しぜんほう)について熱く語りましょうと…」 「く… クソ!! 今度は直々にお前たちのところまで行って、窓口で怒鳴りつけてやる。アンタの上司にまで波及するようにな!!」 「…」  …まぎれもない恫喝だ。新入りはもちろん、ベテランでさえ上を気にして動く時代。歩調が合わせられず議題などが一向に前に進まないのは、そういった複雑なしがらみのせいだ。  ハンコ文化、紙文化… お役所仕事とバカにされ、ペーパーレスの時代で世界に対して今だに遅れてる動きを取るのは、トップのお飾り職を守るためだって言われている。  天下り部長の判は絶大である。そのせいで垂れ流しにされている税金も少なくない… 「そうですか。では是非足をお運び頂いて、我々のホームで決着を付けましょう。あなたの査定に響かないためにも…」  実のところ、役所での記録は査定に直結することが多い。プライバシーの保管場所やら終着点などと言われている。暴れた者、大声を出した者などは査定に響き、泣き寝入りをするほかないのだ。  上へのクレームの件を先に根回ししておけばよい。人間関係を築けていないうちの新人やベテランはそこで渋ってしまう。その弱いところを目の前の男も散々突いてきたんだろう。しかし負けない。 「賢次君!! よければお父さんと一緒に出てきてくれないか!!」 「お、おい!!」  デカい声で、二階に届くように… 何も返ってこないか。無理もない。嫌な現実から目を背けるために引きこもっているんだから…   でも父親と対峙するなら、いずれあの子にも意思表示を取らねばならない。 「区役所で待ってる!! 君を救いたいんだ!!」 「止めろ!! 警察に通報するぞ!!」 「…今日は帰ります。いつ頃、区役所にはご来所予定でしょうか?」 「ケッ… 準備なんてさせない。ゲリラ的に行ってやるんだ」 「ええ… お待ちしております。ちなみに私は二週間後、また来ますので」 「()んじゃねぇ!!」  追い出されるような形で、私は早々に家を後にした。やらねばならないこともある。  報連相… 上司である部長に…  「川上さん… アンタには絶大な信頼を持ってる。頼みますよ」 「ええ。ご期待に添えるよう頑張ります」  …簡単に言うぜ。私の上げた案件でおまんま食いつないでるくせに。褒めるとこ褒めて、貶すところを貶す、そう人間だ彼は…   ◇◇◇  …来訪を伝えた二週間後… 重田が区役所に来所することはなかった。仕方ない、再び出向こうか…  ―――ピンポーン チャイムを鳴らして、堂々とインターフォンの前に立つ。 「すいませーん。民権員の川上ですが…」 「…」  …あれ、出ないな。居なければいいんだが、居留守なら… マズい状況だ。これでは進展しない。  財布は守られているが、子供が救えない… 子供は財を生む貴重な存在。先行投資と思って、国が援助すれば余裕で取り返せる。  こういった輝かしい可能性の芽を救えることに、我々の意義がある。これこそが。やりがいなんだ!
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