【民権員】~私全《しぜん》を愛する者たち~

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「えー… 先日お伺いしました民権員の川上です。本日ご留守だったのでお電話させていただきました。また日を改めてお伺いします。ご予定があるようでしたら、折り返しご連絡くださいませ。失礼します…」  仕方がないので着信を… しかし出ない。留守電を残した。警察でもない、侵入なんてできない。  翌日… 再びインターホンを鳴らすもやはり出ない。折り返しの電話もない。マズい… 閉じこもってしまうと、(こじ)らせてしまう。  前例として、暴挙に出て逆恨みから起こった殺人事件もあった。民権員が刺されて亡くなったことが…  その事件はこうだ。今の俺の状況のように、閉じ籠った半グレの男がある日突然目の前に現れて、黒いバンで民権員を拉致。拉致監禁に遭い… 殺された。人を守るより壊す方が簡単だと思い知ったよ。  暴力は簡単に状況を打破できるんだよ… あの人は俺以上に対話の上手く切れ者だった。国のまさに財産の様な人… そんな人が、意図も簡単にあっさりとバカどもに殺された。  しかもあろうことか、事件は不起訴… 障害認定を受けていた被疑者には不可能という判決。されにあろうことか、追い詰めて口が過ぎたせいだと死者を非難するメディア。  俺は世界の在り方に疑問を持った。この世界は… 平等なんて何一つないんだと  浦川忠(うらかわただし)… 俺の尊敬する先輩だった人。誰よりも私全(しぜん)を愛し、悪党から財布を守り、根絶し、救うべき者たちを守ってきた英雄と呼ばれるお人。  =====カセットテープに残された、事の顛末=====  浦川先輩の後を俺が引き継いだ。ケリをつけるために… 誰もやりたがらない所を率先して手を上げた。 「…お、新入りか。俺に対しては慎重にしないとなぁ…」 「えー 簡潔に審議について述べます。今の状況では認定いたしかねます」 「な、なんだと!! 何故だ!!」 「気に食わないからだ。私がアンタを」 「て、てめぇ!! 役人が言っていいセリフかよ!!」  襲い掛かってきた男を背負い投げ… 背中からリビングの床に叩きつける。 「ぐわ!!」 「俺はアンタを許さない。必ず罪を認めさせてみせる…」 「じょ… 上司に言いつけてやる!! いや警察だ!! お前もう終わりだよ!! はっはっは!!」  ―――ガチャ… 俺は胸ポケットから拳銃を取り出す。そして奴に目がけて構えるのだ。 「え、ええぇえ!! 殺さないでくれ!! 悪かった!! 俺がやった!!」 「…こんな場所でなら、いくらでもそんなこと言えるさ。でも私は逃がさない。お前の真の心からの言葉を貰うまでは」  デコに拳銃を当てて言う。奴は今にも失禁しそうな顔だ。そんな男に容赦なくカセットテープを突きつけて、言葉を要求する。贖罪でもなんでもいい… 形を取らせようとする。 「命を乞え!! あの人に詫びながら、独房の中を生き続けろ!!」 「は、はい!! すいませんでした!! どうか許してください!! 俺がやりました、俺を許してください!!」  男は床にでこを擦りつけて、ひたすらに謝罪をする。こんなんで先輩が報われるなんて思わない。ただ私の心を満たしたかった。私がその姿を見て満足出来ればそれでよかった。。 「フフ… はっはっは!! な~んちゃって… 安心してください。これおもちゃですよ?」 「はひゃ!! は、は… ハメやがったな!! お前!! 恫喝しやがって!! 俺には 法廷でお前の悪事を…」  ――バン!! 地面に発砲する。真の言葉は、まだまだ先のようだ。 「ひっ!! ひぇええええ!!」 「お前にもバックがいるんだろうが、俺のケツ持ちには勝てない。お前の仲間にも伝えておけ、『自首しろ』と…」 「は、はい!! はい!! こ、殺さないで!!」  全くのハッタリ。この拳銃は押収品を横流ししてもらっただけで(十分悪いことだが…)、ケツ持ちがいるわけじゃない。でも正義は悪人の力を借りなければ成り立たないのだ。  =============  相手の状況が読めない未知で、我々は戦っているんだ。時にはヤクザにも、時には育児放棄(ネグレクト)のシングルマザーにも、時には知識ある共犯者を手に入れた計画犯にも…   恐怖から逃げた民権員も多く見てきた。私も怖い目に何度あったことか… だが私は浦川先輩の意思を汲んで、今も戦い続ける。この道をあきらめるわけにはいかない。  そうして幾度となく戦い続け、伝説となったんだ… ◇◇◇ 「はい、私民生活権利係・増田です…」 「あ、どうも川上です。ホワイトボードに書いておいてください。二、三日席を外していると」 「えっと… どちらへ行かれますか?」 「…」  事務員に電話をかける。あることを実行するために…  ◇◇◇ 「どうも。じゃあWのり弁当で」
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