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男とは
「また何か大きく傷ついたみたいだねぇ」
扉という壁の先で聞いているだろうと思い喋るブレットおばあちゃんに、ベッドから身体起こしたがどう返していいかわからず下を向く。
「好きになった人が、もう帰って来ないんだって聞いたけど」
そうっ、もう彼と、レッド·ドラゴンとは、会えない。そしてまた布団を肩にかけて塞ぎこむ。
「男は勝手だよ、惚れた女をすぐ泣かす。涙を流すみにもなれってんだよ、まったく」
ホントにそう、人を喜ばせといて勝手に『もう、サヨナラのようだ』バカにしてる。最後に『愛してる』って······愛してるなら、愛してるなら――。
だんだんと彼を許せなくなってきていた。
「でもそんな人を好きになったんだけどねぇ」
ブレットおばあちゃんの言葉がロマーヌの心に突き刺さる。まるで見抜かれているかのように。
「だから、ちょっとは彼にチャンスをあげたらどうだい」
「チャンス?」
つい気になって小声が、
「今は泣かないで彼を待ってあげなさい。本当に惚れた女には男は何としても帰ってくるもんさ、耐えるだけ耐えて我慢できなくなったら、その時泣けばいい」
彼を信じる······自分はもう諦めていた。帰ってくるかもしれない、でも、そんな可能性など本当にあるのだろうか。耐えた先に、笑顔になる時が来るのだろうかと彼女は迷い始める。
「それに」
顔を上げるロマーヌ、
「ちっちゃい頃からレストランで接客してたロマーヌちゃんも、そろそろ体が疼いて来てるんじゃないのかい?」
それもあたっていた。こんなに自分の部屋でじっとしたことがない彼女の身体は本人の意思とは別に、疼いていたのだ。そして、
「いろいろ喋っちゃったね~、どれ」
正座していたブレットおばあちゃんは立ち上がり、
「あたしはこれで帰るよ」
階段を下りる音が少しずつ小さくなって行き、ブレットおばあちゃんは帰って行った······。
フィンにブレットおばあちゃん、それと自分を待っているボランティアの人達。まだ自分の気持ちに整理がつかないので扉をこっそり開き、誰も居ないのを確認して階段を下りて一階レストランに。すると、
「ピィッ!」
「はっ······ブルー·バード」
「ピィピィ、ピィー!」
彼も自分を慰めてくれてるのがわかるロマーヌ。ブルー·バードを見ていたらグ~っとお腹の音が、
「そういえば三日間なにも食べてなかったんだ」
しかしここ一階はレストラン、一応調理はできるので、
「······作ろ」
彼女は冷蔵庫から乾燥パスタのスパゲッティーニをな手に取り料理をし始めた。
10分後にミートソーススパゲッティが完成、一人食べると、
「んっ、美味しい!」
あっという間に食べてしまい足りなくなってまた作って食べたのだ。
「はぁーっ」
落ち着くと、
「うっうっ······」
また涙が出てきてしまう。丁度そのとき扉が開き、
「ロマーヌっ、やっとでてきたかい」
「おがあざん、ううっ」
お母さんに抱きついた。
「アタジッ、どうすればいいのかわからない」
娘の頭をそっと包み撫でながら、
「······働きなさい」
「でも、でもっ!」
「動きなさい、そして仕事をするの······そうすればきっと良いことがある。そう信じるのよ、ロマーヌ」
「······うん」
いじけて寝ていても傷は癒えやしない。動いてもおそらく、でも、それでも動いている方がマシなのかもしれないと思って涙を拭った。
「ほらっ、早くパジャマから着替えて化粧して行くわよっ」
いきなり今日はと思い、
「明日から······」
「なに言ってるの、心配してる皆を待たせる気? 思ったらすぐ気が変わらないうちに行動しなさい、ほらっ」
言われるがまま身支度を整え急遽ボランティアに向かうことになってしまった······。
勿論、とつぜん姿を現したロマーヌにみんなは驚き、そこには、
「ロマーヌちゃん!」
ブレットおばあちゃんもいたのだ。頬を赤くし目線を下に向きながら、
「ご、ご心配おかけしました。ま、まだ、完全じゃないですが、手伝わせて貰います」
そう言うとブレットおばあちゃんはこっそりと涙を零していた。
こうして彼女は悩みながらも仕事をすることを選んだ。そして始めると、夢中で仕事をしていると不安を感じずやっぱり楽しかった。
最後までやり通し夕方には、
「ロマーヌさん!」
「フィン、ごめんなさい、また変な姿を見せて」
「いえ、会えただけで嬉しいです」
「ふふっ、ありがとう。また明日来てください」
「はい、では」
フィンも元気を取り戻したロマーヌに心の底から嬉しく、帰って行く······。
その夜お母さんに感謝をして、ベッドでレッド·ドラゴンの事を考え、うるっとしながら眠る······。
早朝ロマーヌはお母さんにお願いしてブルー·バードと共に龍のねぐらを毎朝通うことをお願いすると、それで気持ちの整理がつくならと許した。
続けていればいつか会えると信じて毎日、雨でも龍のねぐらに行ったのだ。当然姿はなく、時には涙し、時には自分は何をしているのだろうとさえ思う、それでも彼女は行き続けた······。
そして2ヶ月の月日が流れた。
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