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君
君は嘘つきだった。なんていうか、天邪鬼(あまのじゃく)だった。
それを知ったのは、私が高校二年生、君が同じクラスだったときだ。どういうわけか、学園祭の演劇の主役に選ばれたとき、君はそれを断ったんだ。
「推薦されたから」
理由はそれだけだった。なんでもない顔をしてとんでもないことを言うのに、私たちは唖然としてしまった。不気味な君は、周りに避けられるようになって、私はなんて人生がへたくそな奴なんだと思った。
もう君は忘れたかも知れないけど、その翌年。すでに君は、嘘つきとして有名になっていた。どうやら家庭が複雑らしい君は、どこかで歪んでしまったんだろうってみんなが噂している頃だった。
夏の暑い日。コンビニでアイスを買って、むわっとする空気の中をかき分けるように歩いていたとき、私は鞄をとられた。
それをひったくりだって頭が認識したとき、私は何か叫んだ。意味があったのかなかったのか覚えてないけど、財布の学生証の再発行がめんどくさいとか、アイスが溶けちゃうとか、そんなことを考えた気がする。
走った途中に、君がいたかは覚えてない。だけど気づけば私の前を、白いシャツの背中が走っていた。
「君が助けなくていいって顔してたから」
ひったくり犯を捕まえて、なんと表彰までされた君に尋ねると、つまんなさそうにこう言ってた。「自分で捕まえる」って顔を私がしてたからだって。
おもしろい奴だなって、私は思った。変な奴。それ以上にそうも思った。
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