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 君と定期的に話をするようになってから、二ヶ月ぐらい経ったとき、初めて君の住む部屋に行った。授業をサボった君に、ノートを返すっていう口実で、義務感半分興味半分でチャイムを押した。  がっかりしたことに、君は突然の訪問に、大して驚きも焦りもしなかった。部屋見せてと言うと、あっさりあげてくれた。  君の部屋は、何というか、とても殺風景だった。君の見られたくない趣味を見つけようと思った私は、心底がっかりした。おまけにお茶まで煎れてくれたから、私は更に幻滅した。 「この写真、綺麗だね」  ただ他と違うのは、綺麗な海の写真が数枚、壁に貼り付けてあることだった。砂浜から水平線を眺めた海がいくつか、簡素なアパートに色をつけていた。 「海、好きなの」  す、と君の口が発音したのを私は聞き逃さなかった。慌てて「嫌い」と言い直す君を見て、君が根っからの天邪鬼じゃないことをようやく知った。いちいち頭で考えて反対のことを言ってるんだな。なんて不憫な奴。  高校で、まことしやかに囁かれてた噂によれば、君には家族がいなかった。とある施設で育って、一人で暮らしている君には、お金がないはずだった。君がお茶のおかわりを煎れてくれてる隙に、私は机の下に積まれた数冊のアルバイト情報誌を見つけてしまった。でも、君が面接に受かったという話はついぞ聞かない。なんだかとても悪いことをしてしまった気がしたこのことは、私も未だに、君に話せていない。  この日からかもしれない、私と君は、急速に仲良くなっていった。そう思ってるのは私だけだなんて、君は笑うかもしれない。けれど私は、君のことを親しい友人だと思った。授業ボイコットの共犯者かもしれない。仲間、と言った方が近しいのか。わからないけど、私は君のことを理解したくて仕方なくなったのだ。  明らかに、そして相変わらず、君は変な奴だった。  ショッピングに行こうと誘えば、映画館に向かった。あれが面白そうと言えば、これのチケットを買った。楽しいところでつまらない顔をして、つまらないところで楽しそうに笑った。どう足掻いても、めんどくさくって厄介で、何故一緒にいるのか分からない変人だった。  でも、君が笑ってくれるなら、なんでもいいや。私は馬鹿みたいにお人好しに、心からそう思った。
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