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今日もこの魔法学校では開校秘話ともいえるような昔話が語られています。
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化学よりもちょっと魔法の方が進んでいた時代のお話。
ここにはまだ魔法学校はありませんでした。
この国は民から慕われていない王様が治めていました。
先代の王様とお妃様が若くして亡くなり、まだ幼いうちから王様に祭り上げられてしまった視野の狭い心の小さな人間。
それがこの国の王様でした。
もちろん本人にそんな自覚はありません。他者からどう思われるかなど気にしたことがないため、気づけば、1人、また1人と王様のそばを離れていってしまいました。
それでもこの国が存続していたのは先代から仕えていた者たちがかろうじて要所要所を支えてきたからなのでしょう。
ある日ついに、お妃様までもが子どもを連れて遠方の出生地に帰ってしまいました。
王様としては「遠方の守りを固めるため」と体裁をつくろっていましたが、実際は愛想を尽かされて出て行ってしまったのです。
ただ、お城にはもう一人、王様の子どもがいました。
その子はお妃様が産んだ子ではなく、別な母親がいました。
以前、魔物討伐という名目で観光地に遊びに行った際、ちょっとお遊びが過ぎて出来てしまった子どものようでした。
――ようでした、というのは、王様は毎日酔っ払って過ごしていたため、そこまでした記憶がなかったのです。
”証拠”がなければ迎え入れはしなかった筈の子どもです。ですが、とある冬に城門に現れたミルハと自称するその子は、王室御用達の綺麗な布を身にまとっていただけでなく、王様の署名入りの書簡を持参し、指には王家に代々伝わる『加護の指輪』をしていたのです。
書簡には”困ったらいつでも私を頼るように”といったことが記されていたため王宮は紛糾しました。
当時「闇に屠ってなかったことにしてしまえ」という王様とお妃様の意見が採択されたのですが、指輪の効果なのか何度やっても暗殺は成功しませんでした。酔っぱらっていたとはいえ、王様が魔力を込めて正式にはめただろう加護の指輪は外そうとしても外せるものではありません。指輪をしている者が自ら命を絶つか寿命で死ぬまで外れることはないのです。
そうこうしているうちに新たな御子のことが国民に知れ渡ることとなり、正式に王様の娘として迎え入れられることになりました。
王様は渋々、我が王室に神より御子が遣わされた――、とかなんとか発表することとなりました。
このときから王様とお妃様の仲は険悪になっていったのです。
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18歳を超えるだろう年齢に達しても身長は現れたときと同じ10歳くらいのまま。声はいわゆるダミ声で鼻も低く、顔にはソバカスがあり首から肩にかけては生まれつきと思われる幾何学的なアザ。政略結婚に出そうにも断られてばかりで王室の面目も立ちません。
いつしか王様は近衛隊長の娘である女騎士にその子の世話係を兼任させ、我は一切かかわらぬから好きにせよ――と匙を投げました。
とても姫君とは思えぬ立ち居振る舞いでいつも城外の者と遊ぶ少女。
(ミルハ様は何のために生かされておられるのか……)
自分に向けて大きく手を振る笑顔の少女の行く末を考えると、ナーキは理由もなくさみしい気持ちになるのでした。
「ナーーキーー! どーーしたのーー?」
ミルハのダミ声が響きます。
ナーキも手を振りかえし、ミルハに歩み寄っていきました。
「そろそろ帰りましょう!」
ナーキが城門の衛兵に向けて信号用の手鏡をチラつかせると、城門がゆっくりと開き送迎用の馬車が出てきます。
ミルハは遊び仲間に笑顔で手を振るとナーキに言いました。
「あー、楽しかったぁ。近いし歩いて帰ろ?」
「では、馬車と合流するまで歩きましょう」
ミルハは歩きながら今日遊んだ内容、楽しかったこと、驚いたこと、ガッカリしたことなどを聞かれるともなくナーキに話していきます。
所々で、姫様っ! と街の人たちから声をかけられるたびに笑顔を向けては手を振り返していました。
しばらく歩くと馬車と合流し2人は乗り込みます。
こっこぽ、こっこぽと馬の蹄の音が心地よい車内で、ミルハは照れ臭そうに口を開きました。
「ねぇ、ナーキ、私、ずっと前から好きだった人がいて、今日、告白されちゃった……」
ナーキはびっくりしてミルハの顔を覗き込みます。動揺が言葉にも出てしまうくらいです。
「み、ミミミミ、ミルハ様、その、なんというか、えっと、ちゃんと後ろからも見てみましたかっ?」
ミルハは大笑いすると、
「前から好きって、後ろからは嫌いとか、そういう意味じゃないからっ」
と言って今度はミルハがナーキを覗き込みます。
ナーキは慌てて返します。
「わかっておりますぅ。冗談です、冗談ですから!」
いつものクールな女騎士からは想像もつかないようなナーキの慌てっぷりに、ミルハはお腹を抱えて笑い出しました。
ひとしきり笑い終わると、ミルハは笑い涙を子どものような小さな指で拭いナーキに訊ねました。
「……ナーキってさ、好きな人とかいるの? その、結婚したい人とか?」
ようやく息が落ち着いたナーキに追い打ちをかける質問でした。
「え、え? え、私ですか?」
コクコクとうなずいてナーキを見つめるミルハ。
ナーキは身をよじらせながら、言おうとしては窓の外をキョロキョロと見て、また言おうとしてはミルハのスカートのすその埃を叩いたりしていましたが、ミルハのどことなく冷めていく視線を感じ、ついに身をよじりながら言いました。
「……おりますょ、1人」
ミルハの視線に熱が戻ります。
で、誰なの? と食いつくミルハに、観念したように答えるナーキ。
「憲兵の……」
両手に耳をあて熱視線をおくるミルハ。憲兵の?
「憲兵のカチル……」
ナーキが言うと、はぁいはいはいはいはいと納得したように大きくうなずくミルハ。矢継ぎ早に問いかけます。
「彼、格好いいもんね。背も、背の高いナーキよりさらに高いしね。でも、やっぱり顔に惚れたの? ってゆうか、見た目以外にも好きなところあるの? 彼、憲兵ってくらいだから頭固そうだよね? もう付き合っているの?」
ナーキは口をパクパクさせながら声を絞り出します。
「ミルハ様ぁ、勘弁してくださいぃ……」
冷めていくミルハの視線――。
「もぅ、わかりましたよっ、ハイ、顔も大好きです! 一緒にいるときはゆったりした気持ちになれるところなんかも大好きです! 頭は固いというか、真面目な性格で、そんなところも大好きです! 付き合っているというかお互い非番の日は一緒に食事行ったり買い物行ったりしていますぅ、でも結婚とか、そういうことまでは、まだ……。もうぅ、いいでしょ!」
ハイ分かりました、で? 寝たのかい? とラストクエスチョンを放つミルハ。
ナーキは頭をゴンと背もたれにぶつけて遠くを見ています。
ミルハはくすくすと笑いだし、ごめんね、アリガトっとナーキの頭をなでました。
ふてくされたように口をすぼめて今度はナーキが訊きました。
「で、そのミルハ様に告白したっていう、大胆な身の程知らずはどこの馬の骨なんですかぁ?」
ミルハは両手を膝の上で重ねると小さな声で言いました。
小さすぎて馬のこっこぽこっこぽにかき消されて聞こえなかったナーキが、仕返しとばかりに両手を耳にあててミルハをガン見します。
「ほ、歩兵のコル……」
はぁぁー? と大げさに見えるほど本心から驚いたナーキは、ガシっとミルハの両肩を掴んでぐらんぐらんと揺さぶります。
「ザコですか? 本当に? いや、ほんとに馬の骨に人の肉くっついているだけではなくて? 出自はちゃんとしてますか? なんか弱みでも握られましたか?」
ミルハは拗ねたような表情で言いました。
「ひどいょ、もう。コルは歩兵だけど、いや歩兵だからかも……、コルはなんでもできるし色々知ってる。将来は物語作家になりたいんだって。……最初は近衛兵になって城に入りたかったらしいんだけど、コルは一般からの志願兵だし……。それに、出自を言ったら私だって……」
マテマテ待て待て、と、ナーキはミルハに諭すように言いました。
「確かに歩兵は重要な兵種です。歩兵のいない軍隊はありません。ザコとか言ったのは失礼でした。ですが、収入の安定した軍をやめて、いずれは作家になるとか、頭おかしくないですか!? 城内ならまだしも、文字が読める人間なんてほとんどいないじゃないですか!?」
「うん、うん。わかってるよ、難しいのは。でも、私なんかに結婚しようって言ってくれたんだよ……」
ぐらんぐらん揺さぶられながらミルハは言いました。
ナーキはこれまで、ミルハの母親とはいかないまでも、姉くらいな気持ちで接してきたつもりでいます。
な・ん・で・す・とー! ナーキは剣に手をかけ馬車を飛び降りんばかりの勢いです。
「たしかにミルハ様は抜きんでてお美しいご容姿ではございません。ご教養も他国の姫には遠く及ばないでしょう。ですが、たかだか一兵卒の分際でミルハ様に求婚とはおこがま――」
ぽかんっ! いい音が響きました。ナーキが扉を開け飛び出した瞬間、御者の老兵がナーキの頭を馬車の備品の工具で叩いて気絶させました。
「お二人とも到着いたしました」
ミルハは、ジイありがとう、と声をかけ、気絶したナーキを後ろから羽交い絞めにしてズルズルと自室まで引きずっていきました。
(ナーキ、あなた今ちょっと失礼なことを言ったよね、まったく……)
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ナーキは納得していませんでしたが、ミルハが求婚された旨を王様に報告しました。
王様は、好きにせよ、と手首だけ動かしてナーキに退室を促しましたが、ふと、何かをひらめいたようにナーキを呼び止めました。
「待て。そのコルとやらとミルハをここに連れてまいれ」
後日、ミルハとナーキ、コルの3人は謁見の間にいました。
王様はコルの言葉を聞く前から、いきなり、
「2人の結婚を認める」
と、結婚を承認したのです。
ナーキはただ驚くばかりでしたが、ミルハとコルはともに笑みをたたえて見つめ合いました。
「ただし、条件がある!」
王様は2人を見下ろしながら言いました。
「コル、お前は100日間、日の出ている間はずっと城門前の大樹の下に立っておれ。当然、軍は解雇だ」
続けて、
「ミルハよ、お前は100日間、看守塔最上階の部屋で待機せよ。部屋を出ることは許さん。何かあればナーキを頼るがよい」
2人は何を言われたのかわからないままでいると、王様は言いました。
「神より授かりし我が娘を卑しき一兵卒などにくれてやるのだ、条件が飲めぬなら諦めよ」
王様にとってミルハは疫病神のようなものでした。
この国の人間としては珍しい黒髪と黒い瞳。性格だけでなく見た目も声も何一つ王様と似ているところのないミルハ。
ミルハが現れた後すぐ、王様自ら、これまで出向いたすべての観光地を再訪しました。そして将来の安寧を約束にミルハの母親を探したものの名乗り出る者はおらず、軍を遣って捜索するも該当する女性は見つけられませんでした。
もはや本当に自分の子であるという気すらなくなっています。
ミルハが現れてからというものお妃さまには見捨てられ、後継を考えていた息子も遠方の風土病に蝕まれました。
ミルハを使い政略結婚を画策しても屈辱的な破断ばかり。
ミルハが城外の民に好意的に迎えられている評判を聞くたびに、逆に自分の悪評が広がっているのだろうと薄々気がついてもいました。
ただでさえ圧政を布いていましたが、そんな風の噂を耳にするたび、いっそう締め付けを強めていたため近隣諸国からも愚王とささやかれるようになっていました。
お父様――、そう呼ばれることすら腹立たしい。ミルハには、いっそ絶望して自害してもらえればすべてうまくいくと考えていました。
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ミルハは看守塔最上階の部屋に軟禁されています。
もともと屋上の見張り台に物資を迅速に供給するために作られた保管庫だった部屋です。
部屋には一通りのものは揃っています。ナーキが申請して用意したもので、シンク、浴槽、簡易トイレ、ベッド、テーブル、椅子、そして天井近くに換気と明り取りを兼ねた大き目の窓――。
王様はガチガチの幽閉を指示したつもりでしたが、ナーキの裁量により軟禁程度の処遇になっていました。
ミルハは自分で窓からコルを見ようにもテーブルに椅子を使っても身長が足りません。ナーキは背が高いのでナーキが来るとテーブルの上に立たせ、抱えて見せてもらっていました。
ただ、城で一番の高さなため、いささか距離があり、こちらに手を振るコルが小さく見えるだけでした。
さすがにショックだったのか王宮の料理番がつくる食事も喉を通らなくなり、もともと不思議なくらい小柄だった身体が1週間もしないうちに鳥ガラのように痩せこけていきました。
心配したナーキは、ゴツゴツした詰み石の壁によりかかる鳥ガラ(ミルハ)に言いました。
「今日から私がここで調理をいたしましょう。軍隊式の料理なのでお口に合うかわかりませんが」
ミルハはかっさかさの唇からかろうじて声を出しました。
「……コルはよくカレーライスを作ってくれた……」
ナーキはフっと笑うと、エプロンを着ながら答えました。
「私もよく”下っ端時代”に作りましたのでお手の物ですよ」
ミルハは出来上がりを待たずにナーキの横に椅子を持って行き、調理している様を眺めていました。
(この香り。そう、この香り、よくコルが作ってくれたものと同じだ……)
出来上がる前にナーキは、いきなりだと胃を痛めるので、と、ミルハにまず緑色の薬草汁を飲むように促しました。
渋い顔をして薬草汁を飲むと粗末なテーブルにカレーライスがやってきました。
「毒味をかねて私もご一緒させていただきますね」
ナーキが言い終わるや、ミルハは、うん、とうなずくと貪るようにカレーを口に運びます。
「おーいーじーっ!」
一段と激しいダミ声を出しながらカレーライスを頬張る鳥ガラ(ミルハ)をナーキは微笑ましく見入っていました。
一方コルはというと1日目は看守塔の最上階の窓をずっと眺めているだけでした。
しかし一向に顔を見せてくれないミルハに不安を感じつつも、おでこから上と小さな両の掌がちょこちょこと見えることがあったため、なんとなく事情を察することができました。おそらく椅子に立ったところでミルハの身長では窓から下を見下ろすことができないのだろう、と。
2日目以降、夜は松明を焚いて何やらせっせと作業を始めました。
軟禁されて10日ほど経ったころでしょうか、ナーキは外の大樹の下に簡易な櫓(やぐら)が作られつつあるのに気が付きました。
夕食後ナーキは、面白いものが見えますよ、と、窓辺でミルハを抱え上げました。
薄暗いなか大樹の裾の方に松明が光っているのが見えます。あ、とミルハは目を凝らしました。ここ数日大樹の根元に木材が積まれていっているのは気づいていましたが、いま見ると何か形ができています。
「何かできてるよ?」
ナーキを見るミルハ。
「あれは櫓(やぐら)でございます。おそらく毎晩適当な枝をはらっては作業していたのでしょう。コルは本気で100日耐えるつもりかもしれませんね」
ミルハは、うん、とうなずくと下に降ろしてもらいました。
ナーキはバレまいと涙をこするミルハに気付いて、
「備品の使用許可が出ましたので明日は遠眼鏡をお持ちしましょう。それと私も毎回テーブルの上に立つのは気が引けますので脚立も部屋の備品として申請しておきました。楽しみにしていてください」
そう言うと部屋をあとにしました。
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翌日の夕食時、ナーキは望遠鏡と弓と脚立を2つ持ってミルハの部屋に現れました。
食事を早々に片づけた2人は窓の下に脚立を立てました。
気をつけてお上がりください、と、先にミルハを脚立に立たせたナーキは自身ももう1つの脚立に上がりました。
「ほら、ミルハ様、あの櫓の軒に松明が光っているでしょう?」
遠眼鏡をミルハに渡すナーキ。少し興奮気味に覗き込むミルハ。
「うん。あ。見えた。コルだ! でも、夜だし向こうからこっち見えないよね……」
「ミルハ様、コル様に何か書いてあげてください。矢に結びここから櫓に放ちます」
そういってナーキはミルハに鉛筆と紙を渡しました。
「えっと、なんて書いたらいいのかな?」
「いまのお気持ちをしたためれば良いんです」
そうだね、とミルハは何やらスラスラと書き、紙をナーキに返しました。
内容が見えてしまったナーキは、ミルハにバレないように一瞬、ぷ、と笑うと、紙を矢に結びつけます。
「こんなに離れていて届くの? 大丈夫?」
ご安心を、と言うに続けてナーキは矢に向けて詠唱しました。
「いま百発百中の魔力を込めました。初歩的な魔法ですが、これでどんなおたんこなすが矢を射っても目標にズバッと刺さります。いま目標にする松明の脇にも念糸を伸ばします」
ナーキはもう一度詠唱すると弓から赤く細い光が目標まで伸びていきます。松明脇に赤い光の先端が触れたかと思うと、赤い光が小さな魔方陣に変わりました。
「私に射させて」
ミルハはナーキから弓と矢を受け取りました。
かなり不慣れながらも弓を構え、そのまま深呼吸するとミルハは弓を放ちました。
「ちゃんと刺さった?」
ナーキはずっと遠眼鏡を覗いています。
(――理が、歪んだ?)
ナーキは楽しそうに弓を返すミルハから片手で弓を受け取ると、顔から急に血の気が引いていきます……。
コルはミルハが自分を見ているとは露も知りません。
いま、コルは猛烈な尿意に襲われていました!
櫓2階部分の作業中でしたので下におりたものの、初日に作った簡易トイレまで持ちそうもありません!
やむなし! 松明の明かりがギリギリ届く櫓1階の壁際でズボンのファスナーを下げます!
お――、ぶるっと一度小さく身体を震えさせ安堵した瞬間、お尻の頬に衝撃が走りました。
あ、痛ぇっ! と、そのまま仰け反って倒れそうになる身体を壁に両手をついて支えます。
ゆっくりお尻に手を回すと間違いなく矢が刺さっていました。
「どうしたの? ナーキ?」
ミルハは不安そうにナーキを見ます。
どうしてこうなった……? ナーキは遠眼鏡をミルハに渡します。
ちょっと! ナーキは脚立から転がり落ちそうになりました。ナーキに支えられ脚立を降りると、小太鼓を叩くように両腕を上下させて声を荒らげます。
「刺さっちゃった! 刺さっちゃったよー! コルのお尻に! どうする? なんで? 百発百中じゃなかったの!? どうしたらいい!?」
「落ち着いてください! 気のせいかもしれません! 私がもう一度見てみますから!」
素早く脚立に上ると再び遠眼鏡を構えるナーキ。
覗き込んだ先で光が明滅していました。松明の明かりを使った手鏡信号のようです。
よく見るとコルは笑顔でした。
「あぁ、ミルハ様、やはり見間違えのようでした」
ほっとしながらナーキは信号を読み取ります。
「手鏡信号が送られています。ど・う・も・あ・り・が・と・う、だそうです。見てみますか?」
ミルハは安心したように脚立に駆け上がります。
ナーキは遠眼鏡から目を離してミルハに渡そうとする瞬間、遠眼鏡の視界のフチのあたりに見慣れない何かが見えた気がして、もう一度遠眼鏡を覗き込みます。
コルは笑顔で手を振っています。……が、ズボンとパンツはスネの下あたりまで下がったままでした。
ナーキは急に汗だくになりながら部屋の照明を反射させ手鏡信号を返します。
”は・や・く・あ・げ・ろ”
信号に気づいたコルは一瞬動きを止めましたが、すぐに理解したように両手をめいいっぱい上げてぴょんぴょん跳ねました。
(そっかミルハ、背低いもんな)
見慣れない股間のブツもワンテンポ遅れでぷゆんぷゆん跳ねています。
ナーキの汗だくな顔と、放そうとしない遠眼鏡……。再び不安を感じたミルハは、強めに引っ張って遠眼鏡をナーキから取りました。
ナーキは必死に信号を手早く繰り返します。
”ち・が・う・そ・う・じ・や・な・い”
遠眼鏡に目をやるミルハ。
さらに高速に信号を送るナーキ。
”ち・が・う・ち・が・う・ず・ぼ・ん・を・あ・げ・ろ”
ミルハの顔に笑顔が戻ります。
「良かった。気のせいだったんだね。手振ってる」
ナーキは脱力しました。
なんとかギリギリ、信号が伝わったようで、ミルハの覗き込む視界には笑顔で片手を振るコルがいました。
コルは片手でズボンを上げきりました。
そうそう、手紙にはなんて書いてあったのか?
”今夜も満腹だよ。コルもきちんと食べて身体に気をつけて。ミルハ”
コルが開いた矢文には、そう書かれていました。
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ミルハが軟禁されて2週間ほど経ったある日、ナーキは夕食の片づけをしながらあることに気が付きました。
ミルハが、今夜も満腹ぅ~とさするお腹がフトッチョオオガエルのごとく肥大化しているのでした。
「ミルハ様、明日からは少し鍛錬をしませんか?」
「ふぇ? なんれ?」
げっぷしながらミルハが訊ねると、食器を片付けながらナーキは言いました。
「その、お腹です。すでにドレスがぱっつんぱっつんではないですか。そんなことでは100日ぶりにコルがミルハ様を見たときにどんなにガッカリするか……」
ミルハはベッドにごろんと寝転ぶと片肘を立ててナーキを見ます。
「えぇ~、気にするかなぁコル。体型とかあんまり気にしなさそうだけど?」
「ミルハ様、世の男たちは口ではあれやこれやと綺麗事を言いますが、結局のところスタイルの良い女性に惹かれるただのオスですよ」
「そうかな、う~ん、じゃあさ、カチルも? 将来ナーキがぶよんぶよんに太ってしまったら、ナーキのことを嫌いになるの?」
ミルハが悪戯っぽい笑みを浮かべながらナーキに視線を合わせます。
「か、カチルは特別ですっ。それに私は鍛錬を怠りませんのでぶよんぶよんになったりはいたしませんぅ」
「え~、男ってカッチカチの筋肉質の身体より、柔らかくてふくよかな方が好きなんじゃな~い?」
「――どちらにせよ、今のミルハ様がふくよかなのはお腹だけですので健康のためにも頑張りましょう」
サァとにかく明日からは少し鍛錬の時間を作りますよ、おやすみなさいませ、と言ってエプロンを外すと、ナーキは足早に部屋を出ていきました。
ミルハは仰向けになり天井を眺めながらお腹をさすってみます。間違いなくぶよんぶよんで、ふくよか過ぎています。そのまま胸まで身体をなぞると、だいぶ以前にちょっとふくよかになったきりの膨らみがありました。
(う~ん、これは確かにマズいか……)
扉の外ではナーキが胸に手をあてていました。
(カッチカチ……?)
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何やらコルが夜通し作業をしているのに気づいた周囲の者たちは、最初こそからかい半分で話しかける程度でしたが、日に日に出来上がっていく櫓をみると、皆ちょっと応援したい気持ちになってきました。
城外に出る役人や、行き来する商人などの口を通じて、皆おおよその事情は知っていたのです。
夜、作業を手伝いに来てくれたり、自分たちにとっても貴重な冬越えのための食材を分けてくれたり、軍時代の友人などは薄いエッチな冊子をよこしたりしてくれるようになっていました。
城の様子が城外に伝わるのと同じように、そんなコルの現状も王様に伝わっていました。
2人を会わせないようにして一月もしたころ、王様は苛立たしげに近習を呼び、コルの立つ大樹の四方に立札を杭打つように命じました。
”コルなる匹夫、ただいま王陛下より下賜されし試練の最中なり。よって一切の関わりを禁ず。禁を破りし者は理由を問わず厳罰に処す”
これでコルは孤独になった――。王様はほくそ笑むと溜飲を下げました。
コルが完全に孤立したのかというと決してそんなことはなく、相変わらずたわいない矢文や手鏡信号でミルハとつながることができましたし、軍時代の友人は見回りと称して会いに来てくれていました。
100日まで残り10日を切ったころ、日課としていた夜の鍛錬中に1人の男がコルの櫓に現れました。
憲兵隊のカチルでした。
ナーキに、様子を見がてら「ミルハ様のことはご安心ください」と伝えてほしいと頼まれたのです。
「臨検だ」
コルも背が高いのですがカチルはさらに頭ひとつ足したくらいな身長でした。歳は同じくらいなので20代前半くらいなものでしょう。噂どおりの綺麗な顔立ちで、浅黒く彫の深いコルとはまた違った端正さでした。
「ヤバいものなんて持ってませんよ」
コルは応じて扉を開けると足で友人の差し入れの薄い冊子をベッドの下に蹴り入れました。
カチルは眼鏡越しにベッドの下に視線を送りましたが、呆れたように軽く息を吐くと、断るでもなく椅子代わりの切り株に腰を下ろしました。
「回りくどいことは抜きにして話す。あと少しで100日だが、お前が今日まで耐えてこられたのはなぜだ? 身の丈に合った女など他にいくらでもいるだろう」
コルは嬉しそうに答えます。
「約束したんだ。毎日おいしもの食べさせてあげるって。毎日楽しい話きかせてあげるって」
言うと、青汁しかないが――と、グラスをカチルに渡して話を続けた。
「正直、あんたほどではないだろうが俺はけっこうモテる方だと思う。教会のケイスや魚屋のリミー、馬の調教師のサマン……」
――ババァばっかりじゃねぇか、コルがあげる名前を聞いてカチルは顔を引きつらせます。
気にせず話すコル。
「みんな俺に良くしてくれるばかりで、俺の話ってあんまり聞いてくれないんだよな、だからこっちもなんかしてあげようって気に全然ならなくってさ」
自分の分も青汁を注ぎ、ゴクと一口すすって続けるコル。
「でもさ、ミルハ様は違うんだよ、面白そうに話を聞いてくれて、俺の作った料理を腹いっぱい食べてくれる。そんなミルハ様見ていると、なんでもいいから何かして、とにかく喜んでもらいたくなったんだよ」
そして――、と青汁を飲み干してひしゃげた表情を戻しつつ、コルは言いました。
「まえに川を渡りたいっていうもんだから、抱きかかえたことがあってさ。そのとき水面に映る太陽がまぶしくてとっさに目をつむったんだ。そしたら、急に、そのまま走り出したくなったんだよ。どこへか分からないけど、とにかく思い切り走り出して、ミルハ様をもっと楽しいどこかに連れて行ってあげたくなった。それで、川を渡りきったとき約束したんだ、毎日おいしもの食べさせてあげるって。毎日楽しい話きかせてあげるって」
カチルは聞き終わると膝の上に両肘をのせてうつむくと、そのまま押し殺したような声で言いました。
「のんきに構えているところ残念だが……」
コルはベッドに腰を下ろす直前で動きを止めてカチルを見ました。
「残念だがコル、お前とミルハ様が結ばれることはない。明日から王陛下に命じられた刺客たちが昼夜を問わずお前を殺そうとやってくる。憲兵隊でも情報はつかんでいるが――」
王様の命令であれば手出しができない、そういうことでした。
「陛下はお前を殺し、絶望したミルハ様が自害してくれることをお望みのようだ……。戦争孤児だったお前にはもう、人質にとられる家族もいないだろう。城外を巡回してお前の評判はたくさん耳に入ってきた。こうして話してみただけが、人となりもなんとなくわかった」
カチルは顔を上げると、逃げろ、と言いました。
「俺は恋愛感情というものがよくわからない。いまも女と付き合ってはいるが、お前のように本心からそいつに何かをしてあげたいと思ったことは、ない。男も女も距離や時間が隔てられれば、いつまでも1人のことを想ってはいられないんじゃないか? だからこそ、どこに行っても恋だ愛だと始められるように、この世の至ることろに男と女がいるんじゃないのか? 俺はそう思う」
言い終わるとカチルはグラスを持ったまま立ち上がり青汁を飲み干しました。
いままでに味わったことのない苦さが口に広がると、カチルは顔をしかめながら腰の剣に手をやりました。
毒じゃねぇよ、とコルに言われると口元を袖で拭いながら扉に手をかけ、
「お前が姿を消したあと、ミルハ様には自害しないように見張りをつけるから安心しろ。時間がたてばミルハ様も気を落ち着かせるだろう」
そう言って櫓を後にしました。
カチルはナーキに頼まれたことをそのまま伝えれば良かったものを、言い方がマズかったのか、コルの怒りスイッチを押してしまったようです。
コルはあたかも何かが血に溶けて炎が身体を廻るような感覚に包まれていました。
(ミルハ様を自害させるだと……、それを防ぐために俺に逃げろだと……。自害しないように見張るだと……。結局、ミルハ様はいつまでも閉じ込められたままじゃねえか!)
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その日の明け方から、カチルの言っていた刺客たちがコルの前に現れるようになりました。
日中は大樹の下に出ていなければならず、とくに飛び道具を使った攻撃には警戒を怠れません。
たまに自分に遠眼鏡を向けてくるミルハに笑顔で手を振ることも欠かせません。日中の攻撃を防ぎきるのは至難の業でした。
穴を掘り、掘り上げた土で腰あたりまでの土塀を作り、探知魔法をかけつづけます。
日が沈んでからは刺客も接近戦に持ち込んできます。コルは軍隊で習った櫓防衛学を実践し策を練り、極力接近戦とならないように魔法、物理、両方のトラップでしのぎ切ります。
当初、応戦できるものは少しずつ魔力を込めて作ったマジックボールと手製の弓とこん棒、石つぶて、そして自分の糞尿(これは効果絶大で喰らった敵はまず撤退していきました)、くらいなものでしたが、コルは本当に文字どおりの善戦をしました。
倒した刺客の中には見慣れない防具や武器を携えていた者もいて、貧相だった装備も次第に充実していきます。
もともと近接戦闘が得意だったコルは、ミルハに心配をかけまいとする日中よりも夜間の方が戦いやすくなっていきました。
心配して巡回に来てくれる軍時代の友人のおかげで僅かですが睡眠もとることができます。
日に日に傷だらけになっていくコルを見て、さすがにミルハも何かを感じ取り、ナーキに何事か調べさせました。
「コル…、コル…」
ミルハは、事情を知るにいたっても何もできることがないと悟ると、ただ泣くだけでした。
そのダミ声はナーキの心をも締め付けるようでした。
ミルハはそれでも毎朝、勇気を出して窓の外を見下ろしました。
そして明日が100日目という朝、窓から下に目をやると、大樹の下にコルはいませんでした。
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ベッドに座り込み絶望するミルハを、支えるように包み込むナーキ。
そんな2人の耳に、遠くでミルハの名を呼ぶ声が聞こえてきました。
コルでした! その声は間違いなくコルのものでした!
「コルっ!」
ミルハは部屋を飛び出し看守塔の螺旋階段を駆け下りていきます。
ナーキも急いで甲冑に身を包むとミルハのあとを追いました。
看守塔の階段は玉座の間に続いています。
「コルーーっ!」
ミルハが玉座の間まで駆け下りると、6人の近衛兵と立ち回っているコルが見えました。
実戦経験の少ない近衛兵ではいまのコルを止めることはできるわけもなく、一人また一人とコルに倒されていきます。
王様は恐れるでもなく笑うでもなく退屈そうに片肘をつき、息を切らしながら戦うコルを見下ろしていました。
「ミルハ様っ!」
そう叫び最後の近衛兵を叩き伏せたコルは王様には目もくれずにミルハのもとに駆け寄りました。
手を伸ばしあう2人の間に剣が割って入ってきます!
甲冑に身を包んだナーキでした。
「ナーキ、どうして!?」
不安な目を向けるミルハにナーキは小声で言いました。
「私も…、近衛隊の一員なのですよ」
ナーキは威圧的にコルに向かって叫びました。
「聞け! コル! どうして100日待たなかった? いまのお前であれば刺客が何人来ようとしのぎ切れたのではないか!?」
コルは言い返します。
「100日待ったところで陛下はまた次の条件を出してくるだろう、そうやって何度でもミルハに絶望を味合わせ、自害するまで幽閉を解く気などないのだろう」
聞いていた王様はフっと笑うと、倒されている衛兵に杯を投げつけました。視線はずっと下を向いたまま。こんな騒ぎなど関心ないようです。
「それに100日待ったとしたら、それは俺が陛下の思惑に屈したことになる! だから俺はあえて陛下に逆らう!」
コルは呼吸を落ち着けて懇願するように続けます。
「あなただってミルハ様の笑顔が見たいんでしょう、もう俺たちを放っておいてくれないか? 俺はミルハ様を連れてここを出る」
ナーキは首を横に振り、
「ならん! 王女誘拐を見過ごせると思うか!」
「ナーキ!」
ミルハは叫びます。
「私はミルハ様が想いを寄せる男がどんな者か知りたかった。ミルハ様を一生守りきることができる強さがあるのか確かめたいのだ」
いざ、勝負――。
コルに切りかかるナーキ。
ナーキの剣をなんとか避けてミルハに近寄ろうとするコル。切っ先はナーキに向けるものの切りかかれないでいます。
ややこしいことに、ここに憲兵隊が到着してしまいました。
カチルの目に、ナーキと対峙するコルが見えました。
カチルは不思議な感覚に襲われます。落ち着いていようにも気が焦ってしまうのです。――ナーキは俺が守らなければ、と。
声を上げ駆け寄ってくる足音に気づいたコルは、振り向くことなく足音の方にマジックボールを放ると刺客から奪った短剣を放ちます。
短剣がマジックボールに刺さるとまぶしいくらいの光が炸裂しました。
通常ならここで敵はしばらく足をとめるはずですが、カチルの足音はまっすぐにコルへと向かってきます。
剣では間に合わないと思ったカチルが太ももから拳銃を抜くのが見えた瞬間、ミルハは詠唱を始めました。
早口ですがとても複雑な音階を含む威圧的な魔法が発動されようとしている――、その詠唱はその場にいるすべての者に鳥肌を立たせました。
か細いダミ声が詠唱を終えます。
ズバッという青い稲妻が天井を突き破って光ったかと思うと、バババババ――リン!! と玉座の間に雷が落ちました。
そこから先の魔法が映し出す映像は、魔力の高い者か魔眼体質の者しか見ることはできない光景でした。
落雷がフロア一面に閃光を湛えたまま波立つのが見えます。
そして波の光の一筋が大きな腕となり王様の頭を摘まみ上げました。
王様は何かを喜ぶかのように微笑むと、身を崩しそのまま玉座から滑り落ちました。
恐る恐る憲兵隊の1人が玉座まで向かい王様の絶命を確認し、声をあげました。
それを聞いたミルハは、いま自分にできることを思いつきました。
スカートを握りしめながら、声を絞り出します。
「ざ、暫定ですが、この城でいま王位継承権筆頭にある私ミルハが命じます……。みな、武器を収めてくだ、――皆、武器を収めよ! 回復魔法以外の詠唱を解け!」
声を震わせながら、慣れないなかでも威厳を示しました。
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ミルハの放った魔法はいまだ誰も見たことがないもので、宮廷魔法学者たちも首をひねりました。
王家に伝わる加護の指輪の効能かもしれず、学者たちでは研究も進められません。
”神より遣わされし御子さまによる神の御業”ということで解明は先送りすることとなりました。
当のミルハ自体、そんな魔法を習った記憶がないのですから仕方ありません。
王亡き後、遠方にいたお妃様は王位継承権を放棄するとともに、出自の地と周辺のいくつかの村を領地として独立を宣言、争いを望まないミルハ女王陛下の御意志により王宮もそれを承認しました。
女王となったミルハは先代の国葬を済ませ一月ほど喪に服したのち結婚式を挙げました。
結婚式の翌日、まずコルと魔法の学校を作り始めます。
まだ未知なる部分の多い魔法を少しでも世の中の役に立つものとして活用できるように、そして識字率をちょっとでも上げられるように。
各地より魔法教育に関心のある者たちを募り、自身は校長、コルは国語と詠唱化学と体育の教師を兼任しました。
この国初の魔法学校の誕生でした。
ナーキとカチルはもちろん元気ですよ。2人はなぜかケンカしながらも仲良く過ごしていました。
ちなみになかなか仲良くなれずにいるのはコルとカチル。顔を合わせれば一触即発――。お互い理解しつつも、好きな女性を危険な目にあわせたという事実、それを事前に防ぎきれなかった自分のふがいなさ……。それらを2人は自覚していて、それでもやっぱり意地になって小競り合いを続けているのです。
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この時代この国では、まだ化学よりも魔法が少し先行していたため、スマホが登場するのはまだまだ先のこと。
手鏡通信とかありえませんよね。
とまぁ、こんなお話がこの魔法学校の創設秘話として今も語り継がれています。
ダミ声の小さな校長先生はきっと今夜もお腹いっぱいです。
(おしまい)
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