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昼休憩、今日はオフィスにある社員食堂で昼食を済ませる事にする。
高瀬さんからツッコまれた書類の修正という余計な仕事が増えた為、外に出る余裕がない。
社食は安くて早いが、仕事中と全く同じ顔を見なければならないのが難点だ。
俺は気分転換がしたいので、時間に余裕がある時は外へ食べに出るようにしているが、今日はそうも言っていられない。
「あっ! ひらりん、おっつ~。隣取っといてね、すぐに戻るから」
ほら来た。
「初めまして、平林と申します」
入社時の朝礼で自己紹介した直後、あの女にひらりんというニックネームを付けられた。
彼女の方が先輩であるが、俺とは同い年。今ではタメ口で話している。
黙っていれば可愛いのに口を開けばバカっぽい。
しかし与えらえた仕事はきっちりとこなす。
同僚としては信頼しているが、1人の女性と見ると……、どうだろう?
もうしばらく愛だの恋だのからは距離を置きたいのが本音だ。
浮気された挙句、会社まで辞めるハメになった訳だし。
「たっだいま~。うわ、先食べてんじゃん! ヒドくない?」
「別にいいだろ、食べたらすぐ書類仕事に戻るんだよ」
え~っ、ゆっくりしようよ~と言いながら隣の席に座るメンドくさい女、野々村。
あい、というのが下の名前で、事あるごとに名前で呼べと言われるが、残念ながら元カノと同じ名前なのでお断りします。
そんなやり取りをしてながら日替わり定食を食べていると、野々村が食堂へ入って来た高瀬さんへ手招きした。
そんな野々村に手で合図を返し、高瀬さんが食券を買いに行った。
はぁ、思わずため息をついてしまった。
「ん、どしたの? お腹いっぱいになった?」
「いや、休憩中もあの人と一緒かよと思ってな」
ここ2・3日は本当によく高瀬さんに難癖を付けられる。それも俺だけにだ。
他にもミスしてる奴いるだろっ!! と心の中で叫ぶが、俺以外の者に注意する態度は優しい年上お姉さんなのだから腹立たしい。
俺にも優しい年上お姉さんしろよ!!
「あ~、そんな事言わないの! 同じ課なんだから仲良くしよ~よ」
うるせぇ、向こうにその気がないだろ。
言い返してやろうかと思ったら、手に日替わり定食のトレイを持った高瀬さんが来てしまった。
「何の話?」
にこやかに笑いかける高瀬さん。笑いかける相手はもちろん野々村だけだ。俺は含まれていない。
いや、高瀬さんが俺の事嫌いだとか、嫌いじゃないけど生理的に無理だとかであれば、例え野々村が一緒にいようが近付かないんじゃないか?
実際高瀬さんに苦手意識を持っている俺も、何で昼飯を一緒に食わないとならねーんだと思ってる訳だし。
そうだ、嫌ならここに来ないはず。つまり、高瀬さんは俺の事を心底嫌いだという訳ではない……?
「ほら、ひらりんの前の職場から連絡があったじゃん? あれ何だったのかなぁって思ってさ~」
チラリと目だけで俺を見る野々村。いらん事を言うんじゃないっての。
高瀬さんは両手を合わせてから、味噌汁に手を伸ばした。良かった、食いついて来ない。
「何でもないよ」
「何でもないなら話せばいいじゃないの」
食いつくのかよ。
俺に問い掛けながらもお茶碗を左手に持ち、高瀬さんは定食の白身魚の骨を丁寧に取っていく。
「いえ、前の会社でトラブルがあったらしくて、何か事情を知らないかって聞かれただけです。
俺は全く心当たりがないんですけど」
「あの時のひらりんったら怖かったなぁ~。『知らないし知りたくもないです』とか『二度と掛けて来ないで下さい、迷惑です』とか言ってさ。
冷静なんだけどとにかく冷たい声だったんだよね~。私が言われてる訳じゃないのに冷や汗かいたもん」
思い出しただけでも腹立たしい。3日前の事だ。前の会社の社長から電話があった。
それも今俺が勤めているのこの会社に。
内容は経理課にいた元カノについて。
社長からすれば姪だが、会社の金を横領していたのが発覚し、問い詰めたらさらに大きい金額を自分の口座へと移して逃げたらしい。
警察に通報するべき案件だが、自分の姪である事と、その姪からの言い訳が気がかりで未だ出来ていないそうだ。
その言い訳を聞く前に電話をブチ切りしたので、詳細は知らない。知りたくもない。
あまりにしつこく食い下がって聞いてくるもんだから、イライラして怒鳴り散らしてやろうかという思いを押し殺し、努めて冷静に返事をしていただけだ。
冷たい声と言われれば、まぁそうだったのかも知れない。
「そのトラブル、本当に心当たりはないんでしょうね?」
これだよ、俺が本当に困ってるって分かっててさらにツッコんで来るやつ。さすがにイラッとする。
「ないです」
なるほど、これが冷たい声ってヤツか。
「でも、前の会社の社長から電話が掛かってくるなんて、異常よ?」
異常……? 異常ね、確かにそうだけど、それは俺のせいではないし。俺は迷惑掛けられている方だし。
何だよその言い方。いい加減にしろよ。
「元カノが会社の金を持って逃げただけです。俺には関係ないんで」
はい、ごちそう様でした。俺は野々村と高瀬さんを残し、先に食堂を出た。
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