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04
「さて、行きましょうか」
「うん。
……酔い覚ましにちょっとだけ歩かない? タクシー乗らなくてもすぐに着くし」
そう言って、俺の手を取って歩き出す高瀬さん。
あれ? え? 何でこんな展開になるんだ……?
何か吹き込まれていたとはいえ、高瀬さんからこんなアプローチが来るとは思ってもみなかった。
久しぶりに握った女性の手。夜風が涼しい分、手の温もりがとても心地いい。
さっき野々村の男を勘違いさせるような態度は頂けないと話してましたよね?
酔ってて忘れました? 俺、勘違いしますよ……?
そんな俺の心情を知ってか知らずか、高瀬さんが肩にしな垂れかかって来た。
よろしい、ならば勘違いしよう。もうヤケだ、振り切って参りましょう。
「高瀬さんさぁ、何で急に俺にキツくするようになったの?」
思い切ってため口で切り込む。
「え……。えっと、私がキツく当たれば、冷たく言い返してくれるかなって、思って……」
あ~、Mだって話だもんな。俺が怒って高瀬さんへの態度を冷たくするかもと期待したんか。
回りくどいってか、それって修復不可能な溝が出来るパターンじゃね?
「冷たくして欲しいんだ」
冷たく、平坦で小さい声を意識して、耳元で囁いてみた。
「っ!! はい……」
敬語!? ヤバイ、グッと来た。来てしまった。
元々Sっ気があると自覚してたけど、冷たくされたいと訴えるその表情が、こうも胸に突き刺さるとは思ってもみなかった。
グイッと高瀬さんの手を引き寄せて、何も言わず唇を奪う。始めからディープに絡め、きつく抱き締める。
んっ……、はぁっ……、小さく漏れる高瀬さんの声に艶があり、色っぽい。
肩に手を置き、そっと身体を離す。あっ、と声を上げる高瀬さん。少し残念そうなその表情が堪らない。
「どうしてほしい?」
言わせたい。その寂しそうな口から聞きたい。どうして欲しいのか、自分から言わせたい。
瞳を潤ませて、でも目は合わせたまま。逃げる事はせず、でも言うのは迷っている。
そんな高瀬さんをじっと見つめたまま、俺からは何も言わない。
「……続き、してほしいです」
あぁ~来たよ! グッと来たね。またもググッと来た。
再び背中へと左手を回し、右手で頭を撫でてやる。絹のように手触りがいい髪の毛。染めず、黒髪でサラサラなのがとっても良い。
抱き締めたまま胸を張り、その大きな胸をグリグリと押し潰してやると、高瀬さんは耳元で熱い息を吐いた。
「家に、来て下さい……」
よし、行こう。
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