二日目

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二日目

 この村はまさに人々が想像する田舎そのもので、人間は皆殺されているというのに、鶏だけは元気に朝を告げる。一度鳴けば済むはずなのに、目覚まし代わりに何度も何度も鳴くのが非常に喧しい。  寝覚めが悪く苛立ちながら布団を退けたところで、ふと気がついたことがある。  一つ目に、確かにミカのおまじないとやらは聞いたらしい、私の身体には傷一つ無かったこと。二つ目に、ここが異世界であり、夢と違う類のものだということ。全て夢でした、という安直な結末は迎えないらしい。今日までの時点で、不幸なことに、自分たちが演じようとしていた台本の世界に入りこんでしまったと予想できる。  ある程度身支度を済ませて、自分に用意されていた衣装とまったく同じものを着て外に出ると、アンとルカが私の家の前に立っていた。私の姿を見ると、顔を明るくして駆けよってきた。やはり現実世界同様、お揃いの横結びをした二人は親友関係にあるようだ。そうなると、私も親友に当たるのかもしれない。 「どう? 記憶、戻った?」 「昨日はあんまり話せなかったけど、とっても心配してるんだよー?」 「あー……いや、あまり戻ってないな。二人のことは何となく覚えてるけど」 「それなら良かった。私のことまで忘れられてたら辛いし」  アンはそう言うと、元気に手を振ってアンの名を呼ぶアイの方に走っていった。これもまた現実世界と同じで、二人は仲の良い友人らしい。  ルカは、同じく寄ってきたミコトにぺこりとお辞儀をすると、私の手を握る。私より遥かに背が小さいミコトも、私を見上げるようにして微笑んだ。 「おはようございます、ユリさん! 今日から会議ですね、こう言うと不謹慎ですが、私は楽しみなんですよ!」 「あぁ、貴女はそういう人ですからね。きっと人が死ぬのが楽しみとか言ってるわけじゃないんでしょうし。張り切りすぎて会議場を間違えないでくださいね」 「そうだよー、この間の公演のときのミコトさん、『私の舞台は集会所でやる』って言ったのに、公園の広場に来てたよねー」 「ふふ、あれは完全に最後まで話を聞いてなかったんですよ……」  ルカと私のツッコミに、ミコトは苦笑いして頬を掻いた。  ミカを除けば、現実世界と関係性や性格はまったく同じだ。よくよく考えれば、全員でこの世界に迷い込んでしまったのだから当たり前なのだろう。  すると、自分だけこの世界に馴染んでいないことがより一層不思議で仕方がない。前者は小説を書くのが好きだったり、後者はダンス部に所属しているとはいえ、ミコトもルカも自分の役職に少しも疑いを抱いてないようだし、アンもアイも鎧や白衣がよく似合っている。  ぼんやり考え事をしながら、よく似た紫の目をきらきら輝かせて話している二人を眺めていた。すると、ルカは一つ結びの髪をぴょんぴょん跳ねさせながら私に笑いかけた。 「きっと大丈夫だよー、記憶ならそのうち戻るって!」 「あ、そうですね! 悲観する必要は無いですよっ!」  私が曖昧に笑って返すと、遠くの方からアイが、そろそろ行かないと遅れるぜ、と声を張り上げた。そうしてやっとミオンとの約束を思い出し、私は集会所へと急いだ。ミカから情報収集をしなければならない。私が小走りになると、待ってよー、とルカが後ろからのんびり歩いてきた。
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